いったい《どんな時》に企業経営者は、会計事務所の見識を(有料でも)必要不可欠だと感じるのでしょうか。この《誰でも答を知っていそうな問題》が、意外に難しいようなのです。
もちろん、実際に顧客ニーズ開拓の実績を出すには、それ相応の活動が求められますが、活動に際しても、上記の問いの《答》をイメージしないままでは、成果は望むべくもないでしょう。ではその答は《何》なのでしょうか…。

1.一般的なマーケティング手法の限界?

たとえば、暑くなれば扇風機のニーズが増え、寒くなればストーブの需要が強くなるのは当然です。そのため季節に応じた告知が、扇風機やストーブの販売活動の中心になります。
ところが、もし消費者が扇風機やストーブそのものを知らないなら、どんなに告知に努めても、決して売れることはありません。もちろん、それでも扇風機やストーブなら《近所や売り場で体験する》ことが容易ですので、ニーズの火を付けるのは、難しいことではないでしょう。15秒程度のCMや1枚の《ちらし》等で、顧客を動機付けることが可能なのです。

2.高度専門業特有のマーケティング発想

先生方の経営支援業務でも、《法律等の変更》で、企業に対応が求められるような場合、つまり《電子帳簿保存法対応》等が求められるようになった時には、扇風機やストーブ程ではないにしても、経営者のニーズ刺激は容易かも知れません。
しかし、どんなに内容が高度であっても、それだけでは《手続き的な課題》に終わる懸念が残るのです。それは企業にとっては《経営問題の先送り》ですし、先生方にとっては『士業は形式を整えてくれる専門家だ』というプラスとは言えない印象を、経営者に残してしまうことになりかねません。
つまり、分かりやすいニーズを追いかけていたのでは、次々に発生する《経営実践課題の継続的な支援者》だと《認識》してもらいにくいと言うことです。

3.士業は《問題解決者》だと認識させる

そのため、先生方が経営者と良好なビジネス関係を形成されるに際しては、専門見識が《法律対応》のような形式的なものに留まらず、経営上の実際の問題を解決するという点を、経営者に《理解》させなければならないわけです。
そして、経営上の問題の解決は、当面の業績のみならず、長い目で見た《事業力をも大きく左右する》ものだと、経営者に知らしめなければなりません。
これは一見、相当に難しいようですが、実は上記の《扇風機やストーブ》の例と《本質的》に、それほど大きな違いはないのです。

4.専門業の《有料提案》のキーは3つ?

扇風機やストーブは《売場で体験させる》ことで、顧客からニーズを引き出せると申し上げました。先生方のような専門業の場合、それとどこがどう《似ている》のでしょうか。
確かに経営課題は、先生方が意図的に体験させることはできないでしょうが、既に経営者は《経営課題の難しさ》を、何らかの形で、もう既に体験しているはずなのです。
コロナ下で売上が減少する中で、たとえば、資金繰りに《悩んでいる》としたら、経営者は経営上での暑さや寒さに類するものを、既に感じていることになります。
そして、その時に《一歩踏み込む》のです。

5.具体的な提案の以前に共有すべきこと

たとえば、その経営者が、支払いや入金の実績を適切に把握できたとしても、当期や来期の予想が立たなければ不安だと感じていたとします。
その時『こんな方法がありますよ』というソリューション提示を急がず、まずは『資金収支を含めた予実管理法に、社長は既にお取り組み始められたのですね』と、経営者に《自分の立ち位置》を意識し直させることから始めるのです。経営者が、それが予実管理のスタートだと感じていないだけだからです。
これは《①問題の共有》のみならず、経営者の《②取り組み着手念押し》に当たります。

6.無意識的に取り組んでいることの自覚

もちろん、予実管理の導入以外にも、共有すべき問題と取り組みはあるでしょう。しかし、いずれの方向に絞り込むとしても、上記①と②に対し、経営者が『そうだ』と言える必要がありますし、経営者が『そうだ』と言うなら、向かうべき先は《資金収支見通し》でも《毎月の試算表検討会での次月の資金収支見込み》でも構わないはずなのです。
必要なのは①問題認識と②取り組み開始が既に始まっているという《認識共有》です。そのため、経営者が取り組み自体をまだ自覚できていない時には、『それは、こういう課題ですね』と、《振り出し》に戻りながら語り掛けなければならないでしょう。

7.『もっとうまくやる方法があります』

経営者は、自分が抱えている問題とその取り組みが、専門見識の《何》あるいは《どの部分》に当たるかを意識していることは稀です。そんな中で『予実管理への取り組み』を提案しても、『そんな高度な話ではない、邪魔しないで欲しい』とさえ、感じさせてしまいかねません。
しかし《①問題共有》《②取り組み着手念押し》があれば、《③専門見識でサポート》できますよと、問い掛け得るようになります。つまり『(専門的方法で)もっと、うまくやる方法がありますよ』と指摘するわけです。
そして、これが高度専門業の提案の基本になると申し上げられるのです。

8.常に念頭に置くべき5つのステップ!

高度専門業は、扇風機を売る時のように、予実管理というパッケージ商品を売るのではないはずです。企業経営者が問題を実感し、それを解決しなければならないと《意識》した時に、求められる支援の提供で対価を得るわけです。
そのため、顧問契約内容以外の有料支援を行う際には、《①経営者が今どんな問題意識に達したか》そして《②それをどう解決したがっているか》を対話の中で感じ取った後で《③それなら解決の支援ができる》として《④具体的な取り組み内容》《⑤それに掛かる費用》を示す、という(3+2=)5つのステップが必要になるし、逆に常にこの5つのステップを念頭に置くだけでも、経営者との対話の中にビジネスチャンスを見出しやすくなると言えるのです。

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