一人で考えると過去に縛られやすい
経営については経営者が考えるのが、これまでの《常識》でした。経営者が業績を捉えながら組織を動かすのです。しかし、従来発想が限界に達して来た今日、新たな《着想》が求められ始めています。それは多くの経営者には《意外》なものかも知れません。
(執筆:森 克宣 株式会社エフ・ビー・サイブ研究所)
1.年度決算や月次業績の分析では…
年度決算を分析しても、月次試算表を観察しても、『何をどうすべきか分からない』という経営者は増えているのではないでしょうか。『分からない』と口に出さなくても、決算書や月次試算表を《食い入るようには見ない》姿勢から、それらが既に《経営者のヒントになっていない》ことが見て取れます。
もちろん、それは年度決算や月次試算表のせいではないでしょう。既に、経営者が《一人》で考えることに限界が生じているのだと思います。
2.社外支援者の出番だと言えるのか
では、経営者のパートナーとも言うべき顧問やコンサルタントの出番なのでしょうか。もちろん、ある意味では『そうだ』と言えそうですが、その『そうだ』の意味合いも、以前とは少し変わって来ていると捉えるべきでしょう。
顧問やコンサルタントの助言にも、ビジネスの対外関係や社内現場の《実態》を体験できているわけではないという点で、経営者以上に《限界》があり得るからです。
3.従来発想の限界を打ち破れる主体
では、その《限界》を打ち破れるのは《誰》なのでしょうか。もっと平易な言い方をするなら、新たな経営の方向性についての《アイデア》あるいは《考える発端となる情報》は、どこに眠っているのでしょう。
答を急ぐなら、それらは《現場の管理者や担当者》の中に、漠然とした不安や期待の形で眠っていると言いたくなるのです。
4.自社現場に眠る宝を発掘すべき時
ただ多くの経営者は、残念ながら自社の現場に《宝が埋蔵》されているとは思っていなさそうです。むしろ『当たり前のことさえ、十分にはできないのが現場の実態だ』としか感じていないかも知れません。
しかし、よくよく考えてみるなら、非常に優れた人でさえ、食品や飲み物をこぼさずに、《完全に失敗なく》食べることが、常にできているでしょうか。当たり前のことを十分なレベルで行うことは、言葉にするほど容易なことでもなさそうなのです。
5.良い面で見るか不足点で捉えるか
少なくとも、食事中に飲み物をこぼしたからと言って、能力がある人を《愚か者》扱いにはしないはずです。むしろ、その人の《優れた面》が、その人の本性だと捉えるはずなのです。
それなら、現場の管理者や担当者の《本性》についても、指示が貫徹できないとか、日常的な常識に欠けるとか等の《欠点》以外の面を見る必要があると言えるのです。しかも、それは《能力》のような高度な面である必要もないかも知れません。
6.諸関係の中での現場の《体験智》
なぜなら、現場の管理者や担当者は、日々《ビジネスの対外関係》や《社内現場の実態》の中で働いているからです。そして様々な情報や印象を得て、たとえ漠然としていたとしても、それに対する《感想や考え方》を抱きます。
そうした《体験智》とも呼べるものは、経営者が正面から関心を示さないと、一瞬の出来事として忘れ去られます。残ったとしても、せいぜい《愚痴》になる程度でしょう。
7.誰が素早く変化を体験しているか
たとえば、震災に際して動物が人間よりもはるかに先に《危険を察知》することを思い起こすべきでしょう。経営者が人間で、現場は動物だと言っているのではありません。動物は人間より《はるかに自然と密接な関係にあるため、素早く変化を察知できる》のだと申し上げているのです。
経営者が入らない《現場》での《体験智》には、そうした《出来事との密接性》があるはずなのです。
8.体験智を引き出す経営の積極姿勢
もちろん経営者が重視しないことは、現場でも重視されませんから、今、経営陣が《体験智》を聞き出そうとしても、現場は『何のこと?』という顔をするでしょう。あるいは、愚痴という遺物がまき散らされるだけに終わるかも知れません。
従来取り組んで来なかったことには、《雰囲気を変えた場や方法》が必要になるのです。たとえば《管理者に指示を出して結果をチェックする》のではなく、『もっと指示の出しようはなかっただろうか。何かアイデアはないか』と、率直かつ真摯に聞いてみるような機会を持つことが大事になるわけです。
9.経営者に対しては警戒感が先行?
経営者がそんなことをすれば、管理者は警戒しかしないと思います。そのため、外部の講師が《研修》として、《現場の経験智》を引き出す機会が、今求められるはずなのです。
もちろん、現場の《経験智》あるいは《経験感触》が、そのまま経営方針に化けるわけではありません。そこで聞き出した《智的・感触的情報》には、それ自体深い意味はないかも知れません。しかし経営者には、それらが自社ビジネスを《従来とは異なる視点》から捉えるヒントになり得るのです。
10.事業の展開に自信を持つ経営者も
『今、アイデアが豊富で経営の方向性にも自信がある』という経営者にも、その自信に満ちた指示が、現場で《どのように》受けとめられているかを知って、指示の出し方を修正することは重要でしょう。
既にアイデア源が限界に達し、先行きに自信が持てない経営者には、現場の《体験智》から『あっ、そうか』と思えることが見つかるはずです。初回では困難でも、定例化して行けば、経営者と現場で《経営的なコミュニケーション》ができるようになる可能性は大きいのです。
11.業績分析がより効果的になる基盤
業績分析を行っても、改善策が見つかるわけではないし、改善策が見つかっても、それを実現する道は遠い…、そんな感覚が蔓延しがちな昨今、経営者の意欲を刺激する上でも、《現場の経験智を情報源として探し出す》方法の提供は、新たな経営手法として、今後注目されるべきものの1つになるはずなのです。

