事業承継税制を使っても使わなくても、自社株に係る贈与税や相続税の納税対策は重要です。そればかりか、事業承継を行わない企業でも、最終的に“自社資産”がどうなるかは大きな問題でしょう。会社を畳まざるを得なくなった時に、多大な借金を残してしまったのでは意味がないからです。そんな風に捉えると、事業承継関連の提案には、様々な奥行が出てきそうです。

1.事業承継に係わる相続税対策に焦点を絞っても…

自社株を含む相続税対策を考える時、事業承継税制を使っても使わなくても、まず、現状での会社と経営者個人の《保有財産》の評価がテーマになるのは当然です。それ以外に、客観的に財産状況を把握することはできないからです。
そして、自社株評価額とその他の個人財産を総合して、贈与税や相続税の納税額を計算することになります。これはかなり面倒な計算ですが、非常に貴重なデータです。その計算額をベースに、将来の贈与や相続を検討することになるからです。

2.資産税対策はもしかしたら30年先の予定かも?

しかし、当然のように《問題》も見えて来ます。たとえば、2022年3月時点で、会社の自社株評価額と経営者の個人財産額を《推計》したとします。しかし、それ自体は決して実際の相続財産だとは言えないでしょう。
申し上げるまでもなく、実際の相続は、5年後、10年後、あるいは30年後かも知れないからです。今たとえば20億円の相続財産が《ある》からと言って、30年後に、それがいくらになっているかは分かりません。

3.なぜ資産税対策で《相続時》の想定をしないか?

そのため、30年後を正確に想定できるかどうかは別として、そこに“30年後を想像してみる”必要性や動機が、経営者に生まれても不思議とは言えない話なのです。
ただ、ほとんどのケースで、そんな想定は《しない》でしょう。明日のことも分からないのに、30年後など想定不可能に思えるからです。
しかし、現実問題として『では、2022年3月時点の評価額をベースに計算した“この納税額試算”は、いったい何だったんだ』という疑問が、経営者側にはずっと残ることになります。そのため税制改革のセミナー等での相談会で、古い計算書を持ち出して、『これ正しいのか?』と聞く経営者が増え続けてしまいます。

4.経営者をマネジメント・マインドにする方向示唆

そんな事態が繰り返されると、企業側でも先生側でも、一種の“空しさ”のようなものが漂い始めるかも知れません。そして、それがだんだん“資産税対策の魅力低下”に繋がってしまうとも言えそうなのです。
ところが、そんな“空しさ”を一変させて、経営者を《マネジメント・マインド》にする方法があります。それは、たとえば30年先に向けての長期プランを考えさせることです。

5.短期でもプラニングしないのに長期プランなど…

そうは言っても、経営者は予算や収支見通し、あるいは経営計画でもあまり興味を示さないのに、長期プラン等で動機付けができるのかと、疑問になるのは自然かも知れません。しかし、経営者が計画に消極的になるのは、様々な場で申し上げている通り、『先々どうなるか』と考えてしまうからです。
どうなるかを考えるなら、確かに先のことは分かりませんから、プランの意味も感じません。だから経営者には、“どうなるか”ではなく、『どうしたいか』を考えさせるのです。30年後、どうなっていたいのでしょう。もちろん5年後でも10年後でも構いません。

6.生涯現役を決めた事業承継否定型の経営者も同様

事業承継をしない経営者も同様です。20年後あるいは30年後、会社を清算する時、どうあって欲しいでしょうか。あるいはそもそも、自分が90歳近くになった時に、会社は健在なのでしょうか。
もちろん予想ならできませんが、『健在であってほしい』という願いは持てるでしょう。そして、それまで自社を健在であらしめるには、今後の経営は《どんな方向性をとる》べきなのでしょうか。あるいは、早期に会社売却を考えるべきでしょうか。それとも、親族以外に事業承継させてしまうべきでしょうか。
そして、この《思考》こそが長期プランに他ならないのです。

7.自社株オーナーには《長期思考》が本当に不可欠

事業承継をする場合でも、経営者自身は《いつまで実権を握っていたい》のでしょう。そして、事業承継をした後の会社は《どうなっていて欲しい》のでしょうか。
そんな《こうしたいイメージ》を持つことが何よりも大事だとは言えないでしょうか。そして、そのイメージが、『自社株の相続時には、これくらいの評価額になるような会社であって欲しい』という思いに繋がるなら、納税対策に1つの方針ができるばかりではなく、その方向性をとるための《経営プラン》を考えたくなるはずなのです。それは、長期ばかりではなく、中期や短期も含むでしょう。
逆に、“先々どうなっていたいか”を考えないから、長期でも中期でも短期でも、計画マインドあるいは経営管理マインドになれないのではないかと、申し上げたく思います。