たとえば、《単年度計画》には《ひな形》のようなものが存在します。そしてそれは、確かに有益なものだと思います。しかし、事業実践上では《ひな形》にのっとった計画を作ることが大事でしょうか、それとも経営者が描く実質的な《先行きプラン》が大事なのでしょうか。
計画経営が形骸化してしまう懸念が強くなった昨今、そんな素朴な問いを立ててみることは、想像以上に重要なのかも知れません。

1.今や素朴な発想では計画を組むことができない

『年度計画はなぜ必要なのか』という質問に、『各部門や各担当者の努力目標を決めるためだ』と答えられた頃は、経営もある意味で《素朴》だったかも知れません。しかも、自分の努力目標が会社の業績とどう連動するかが実感できれば、担当者の《事業参画意識》も高めやすかったでしょう。ただそれは、現場が《その気》になれば目標を達成できた過去の経営の話だとも言えるのです。
たとえば『生産量を1.2倍にする』という経営方針を持った製造業を例にして、考えてみましょう。

2.目標を掲げれば何とかなった状況は既に終焉!

以前なら、生産量を20%増しにするには、残業を厭わず働くという手段がありました。しかしその後、残業を正面から嫌う従業員が増加し始めます。そして、それが働き方改革で《時間外労働の上限規制》になりました。今や生産増に取り組むには、残業に頼らず、何らかの投資や外部との提携等を考慮しなければならなくなったのです。
営業でも、訪問型から通信型に切り替えるには、通信機器の導入や通信契約から担当者教育まで、様々な投資が必要になります。外部との提携も考えなければならないかも知れません。

3.シミュレーション志向に進まざるを得ない現状

ただそうなると、会社全体の目標や各人のノルマ設定が難しくなってしまいます。計画は、《目標設定型》から、経営判断のための選択肢を検討する《シミュレーション型》に移行せざるを得なくなるわけです。先の製造業なら、機械をスクラップ&ビルドすれば《どんな効果が出るか》を、製品ごとの生産量や原価を想定しながら計算してみなければなりません。
通信型営業への切り替えでも、その効果を想定してみたいと考えるようになるでしょう。つまり《シミュレーション型》には、計算の前に《効果のテスト(効果の予想)》まで必要になりそうなのです。

4.果たして計画経営自体を外部から指導できるか

そう捉えると、計画経営は外部から指導できるようなものではなくなってしまうかも知れません。たとえ指導できたとしても、指導サイドの《労力対効果》が見合わないでしょう。ただし『ああ、もう計画経営の時代ではないのか』と即断すべきではないと思います。
今や、計画経営は《1つの見通し》を立てて、全社一丸となって頑張るための道具ではなくなったというだけのことだからです。では、これからどんな道具になって行くのでしょう。

5.難しいことに適切ではない方法で取り組む現実

そのイメージを、可能な限り簡潔に捉えるなら、経営者あるいは会社として《実現したいこと》が、どうすれば実現するかを、テストをベースにシミュレートして行く形になるということです。『そんな難しいことを中堅中小企業で出来るのか?』と問いたいところですが、それは経営者なら誰でも《自分流のソロバン》で弾いていることだと思います。
そして、その《自分流計算》が、しばしば不適切であるために、あるいは、期中で修正する計算力に至らないために、思う通りの結果を得られないことの方が多くなるのだと思います。

6.経営者が自分のソロバンの確度を検証すべき時

そのため《実現したいことをテストをベースにシミュレートする》という、一種《奥歯に何かが挟まった》ような言い方は、《社長の不完全なソロバン勘定を少しでも高度化する》という表現に切り替えるべきことになります。
つまりこれからの計画経営指導は、計画作りの代行ではなく、経営陣の計算力強化指導であるべきだということです。現実にも、先行きがどんどん不透明になって行く昨今、適切な計算(シミュレーション)ができない経営者が生き残る確率は、益々低くなるでしょう。

7.初歩的な財務・会計見識が必要な経営者も多い

その《経営計算》指導は、初期段階では非常に初歩的なものかも知れません。たとえば、財務諸表の読み方研修から必要になることもあり得るからです。もちろん営業収支だけなら、何とか作れそうですが、貸借対照表や資金収支表は、その仕組みから学ぶ必要がある経営者も多いと思います。
それは経営者にとっては、長い道のりかも知れません。しかし、教える側の会計事務所にとっては、ビジネスとして《実りの道》になり得るはずです。経営者がその気になり、その指導を有料化する提案力があるなら、その《実り》が現実になる確率は大きいはずです。逆に、経営者サイドでは、従来の《自己流ソロバン》の間違いに気付くだけでも、意思決定の方向性が是正されることになるはずなのです。

8.視点を変えれば見えて来る新しい可能性とは?

計画経営の手法とソフトがあって、それを提供することが計画経営指導だと捉えるなら、それは今の経営者の悩みとは縁遠くなるかも知れません。しかし、たとえば『あなたのソロバン勘定からチェックしましょうか?』という発想をとるなら、それは《事業の死活を根本的に左右する指導》への道が開けるはずです。
そんな激しい問い掛けではなく、最初は《収支見通しの提供》でも良いかも知れません。それを経営者が計算するに際して考慮できていない重要事や、誤解している計算法と対比させることが出来れば、ちょっとした《動機付け》を行うだけで、会計事務所の《既存見識で新たなビジネス》が加わることになるわけです。
そんな動機付けから計画経営指導が始まると考えてみても、会計事務所の活躍の場が更に広がると考えられるのです。

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