中堅中小企業の経営者には、経営意識も経営能力も乏しいと言われることがあります。経営者自身でさえも、そう感じているかも知れません。しかし、それは《経営》の捉え方にもよるのです。
そして《経営》を実態に即して捉え直すなら、中堅中小企業に《どのような》計画経営指導を行えば、企業と会計事務所の双方にメリットが出るかの方向性が明らかになって来ます。

1.1つの事業体の中にある2つの経営スタイル

事業体に限ったことではなく、大きな組織には《2つの経営スタイル》が共存していると言えます。その1つは、トップ・マネジメントです。それは会社で言うなら、社長やCEOが引き受けるマネジメントです。《経営》という言葉を用いる時、この《トップ・マネジメント》を意識するのが普通でしょう。
しかし、それだけでは組織は動きません。たとえば製造業なら、製造部門や資材調達部門、運輸部門や営業部門、システム部門や管理部門等があって、それぞれに《部門長》という《ミニ経営者》が必要です。

2.現代の経営理論のベースとなっているもの…

ただし、部門長が行うのは《任された専門分野の経営》です。資材調達部門の長が、製造現場をマネージする必要はありません。同様に、営業部門の長が資材部門業務をコントロールできないように、お互いに《他部門のマネジメント》はできないのが普通です。
ところが、社長は《社内の全部門》のコントロールを任されます。そこには各部門の指揮のみならず、会社としての対外折衝や社内の部門間調整等が含まれます。そして、そんな《組織コントロール》のために、様々な《マネジメント理論》が展開されているのです。計画経営(経営管理)も、その理論の1つです。

3.部門経営では手法より実践や実務の方が大事

一方で、部門経営では《高度なマネジメント理論》よりも《実践力や実務見識》が問われます。予算や計画を作る時も、経営論ではなく《社内での役割》や《現場の現実》からスタートしなければなりません。その意味では、部門の計画は《専門分野での事業計画》であって《経営計画》ではないとも言えるのです。
さて、中堅中小企業の経営は、大企業の《トップ・マネジメント》的でしょうか。それとも《部門経営》的でしょうか。これはもちろん、組織規模だけの問題ではなく、事業特性に関わる問いです。

4.隙間や地域に特化した事業特性の再考が必要

中堅中小企業のビジネスは、高度な分野であれ一般的なものであれ、産業の《隙間》を狙ったものが多いはずです。たとえば、自動車のラジエーター部品に特化した製造のように、事業分野が限られている、あるいは大きな事業の一部分を担うケースが多いということです。
特定の部品製造に特化すると、その分野では世界的な大企業の技術を、品質の面でもコストでも凌駕できます。分野を絞る(中堅中小企業化する)ことの強みです。市場創造に強い大企業でも、自社ブランド製造の全ての分野で一流を保持することは、事実上不可能だからです。
この技術とコストから捉えると、サービス業でも流通業でも、運輸業でも第一次産業でも、中堅中小企業の存在価値は同様でしょう。

5.中堅中小企業の経営は部門経営に似ている?

その結果、必然的に、中堅中小企業の経営は、大企業のトップ・マネジメントではなく《部門経営》に似て来ます。部門経営とは、事業の創造性や戦略性の追求よりも、組織や事業全体の中で《有効な役割を果たす》ことを目指すもので、人によってはマネジメントと区別して《アドミニストレーション》と呼ぶことがあります。
それにもかかわらず、中堅中小企業の社長の経営を大企業のトップ・マネジメントと比較するなら、確かに中堅中小企業の経営は《シンプル》だと言えるかも知れません。そのため、その《シンプルな経営》実践者に、大企業のトップ・マネジメントから生まれた経営管理や計画経営理論をぶつけても、事業実践者(中堅中小企業経営者)の腹に落ちないのは、当然ではないでしょうか。

6.計画経営手法を中堅中小企業向けに編集する

要するに、中堅中小企業経営の指導やサポートに関しては、部門経営的視点、すなわち《アドミニストレーション視点》から、その考え方や実践法を組み立てる必要性が強いのです。既に体系化された経営管理手法から、部門経営的要素をピックアップして、組立て直さなければならないということです。
ここまで来ると、『いや待てよ』とも思えて来ます。もし、中堅中小企業の経営が《部門経営的》なら、計画経営や経営管理が、そもそも必要なのでしょうか。

7.市場や産業の方向性が大きく変わる中では…

大企業が従来通りのスタイルで、今後も中堅中小企業を必要とするなら、大企業ニーズの捉え方を間違わなければ、中堅中小企業の経営に、特別な手法、特にシミュレーションの必要性は低いでしょう。大企業ではなく地域の市場ニーズをベースとした小ビジネスでも、地域の消費者の動静を見失わなければ、うまくやって行けそうです。
ところが今、人手不足を起点に、中堅中小企業の将来性を危惧する風潮が高まり、産業の隙間をAIやロボットで埋める方向性が顕著になりつつあります。地域をベースにしているビジネスでは、人口の減少で事業自体の大革新を行わなければなりません。

8.計画経営意識に乏しい経営では太刀打ち不能

そして、そんな将来危機への対応や事業の大革新には、部門経営的ではなくトップ・マネジメント的素養(の一部)が必要になるのです。計画経営意識の薄い企業経営者は、現代的な産業革命の中で、容赦なく振り落とされるということです。
高い技術や強い市場実感を持ち得ている今のうちに、それを活かす事業戦略を考える技能を、中堅中小企業も自社事業の範囲内で身に付けなければならないのです。そのため、それは中堅中小企業経営の大企業経営化ではなく、むしろ部門の独立経営のようなものでしょう。

9.決算データを掌握できる会計事務所への期待

ただ、この話は、本当に長くなるので、別途《教材》に致しました。それは、先生方向けの解説を加えた、《会計事務所の先生方が講師となる企業経営者向けセミナー》実践キットです。
中堅中小企業は今、遅れた経営意識を取り戻すのではなく、既存の経営手法をベースに、新しくしかも簡潔な計画経営手法を導入して、生き残りを図るべき時に来ていると言えるのです。そして、それを効果的に指導できるのは、決算データで企業実態を掌握できる立場にある会計事務所だけなのではないでしょうか。

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