専門業は《相談》を受けるビジネスです。そして、その相談自体を有料化するのは困難でしょう。そのため《顧問契約発想》が生まれます。しかし今後は特に、《もう一歩先》に進む必要性がありそうなのです。

1.ある日顧問先から難しい相談を受けた

ある会計事務所が、顧問先から《増資》の相談を受けました。その内容は、業績不振で『資金調達が困難になりそうなためバランスシートを整えたい』ということでした。《第三者割当増資》です。
ところが、この未上場企業には増資にかかる費用負担を十分にはできません。そこで《こんな依頼》が発生したのです。その《依頼》とは『増資の手続きは自社で行うから、その方法だけを教え欲しい』ということでした。

2.相談への回答は顧問料の付加価値か?

確かに、株主総会の議事録や法務局への登記手続きだけなら、その会社でもできるかも知れません。しかし『新規発行株の株価をどう決めるか』が、その経営者には分かりません。と言うより、相談時点では、その経営者は『新株も1株5万円で発行するものだ』と考えており、その確認をしたかったようなのです。
そして、株式の評価額計算が必要だと分かった経営者から『新株の株価決定方法を教えて欲しい』と依頼されたわけです。しかも、その経営者は《言外》にではあっても、増資は決算に絡む業務で、教えてもらうだけなら顧問料の範囲内のテーマだと、思い込んでいるようでした。

3.気を取り直して真摯に回答を試みた!

その会計事務所の所長は当初、『これを機会に顧問契約を解消しようか』とも考えたようです。これまでもなんだかんだと《無理難題》を持ち込む経営者だったからです。
しかし専門機関として《気》を取り直し、後日、自事務所の白板を使いながら《新株価格決定の道筋》を説明したそうです。準備にも説明にもかなりの時間が掛かったそうですが、所長は『自分自身の復習になってよかった』と前向きでした。

4.内容の相談から無料化の相談へ移行?

更に後日、新株価格決定を自分ではできないと分かった経営者が、『先生にお願いしたいが、支払える余力がない』と、今度は、いわば《無料奉仕》の相談を持ち掛けて来たのです。既に《説明》を済ませてしまった手前、所長は『今更、顧問料の範囲外だとは言いにくい』と、感じてしまったそうです。
 結局《登記費用》等の実費以外は、顧問料の範囲内で支援することになりました。そして、やや腹立たしかったのは『経営者が、それなら顧問契約を継続してやる』という姿勢を示したことのようです。

5.素人には理解さえしにくい専門的業務

目に見える《商品》ではないばかりか、『説明を受けても(素人には)よく分からない』サービスを提供する《専門業》の悲哀が、ここにあると言えるかも知れません。しかし、会計事務所業もビジネスですから、これを《悲哀》で済ませるべきではないでしょう。
では《どう》すべきだったのでしょうか。枝葉をとって《要点》だけに目を向けるなら、そこには3つの大きな要素が見えて来るのです。

6.第1要素:相談のビジネス的位置付け

その《第1の要素》は、まず会計事務所サイドが、《決算業務の付加価値強化》のために《無料相談》に答えるという伝統的発想から離脱することでしょう。専門業が受ける《相談》は、たとえば住宅リフォーム業が行う《見積》のように、本来《無料》のものであるべきで、答えることが顧問料の付加価値ではないはずなのです。
相談を受けて、その依頼内容を精査しなければ《専門サービスの内容》は決められないからです。それは、顧問契約があってもなくても当然のことでしょう。つまり《相談受付》はビジネス上、本来的には無料の《見積業務》であって、それ以上でも、それ以下でもないという発想が必要だということです。

7.第2要素:ノウハウの見える化を実施

相談受付で無理難題を押し付けられないための《第2の要素》は、上記の所長が行われたように、《専門見識の見える化=増資手続きの説明》を行うことです。
ただ所長が実施されたのは《時間と共に消え去る口頭説明》でしたが、その要点を《簡潔な文書やサンプル》にして顧問先に提示できれば、『説明してしまったのだから…』という思いに悩まされることもなかったはずです。文書化するのは面倒にも感じますが、別の先から相談された時の提示にも、更には増資が必要な会社への提案資料にも使えるため、一気に《ビジネスらしさ》が強化されると言えるのです。

8.専門業にとってビジネスらしさとは?

《ビジネスらしさ》とは、分かりにくい表現ですが、簡潔に言うなら《ドライになれる》ということです。人間関係に支配されがちの仕事を、ビジネスとして分かりやすい形にできるということでもあります。
しかも、上記のような《文書》が多様に蓄積して行くと、それ自体が《会計事務所の有料業務メニュー》の根幹の役割を果たし、関与先から業務を《依頼》された時にも、関与先や新規先に業務を《提案》したい時にも、当たり前のように使える資料になってくれます。
見えないノウハウを提供するビジネスは、そのノウハウのアウトラインを見える化しておかなければ、採算がとれる活動が難しくなるということです。今後、十分な顧問料水準を確保できるとは限りません。

9.提供業務の概要決定後の《第3要素》

無料相談(第1の要素)を受けた際に、提供業務の概要を見える化した文書やサンプルを提出する準備(第2の要素)ができたら、その概要に従って業務やノウハウを提供する際の《料金目安》も付けやすくなるのではないでしょうか。これが《第3の要素》です。もちろん、内容次第では《顧問料の範囲》という明示もあり得るでしょう。
確かに、ノウハウ提供業務は、事情次第あるいは相手の能力次第のところがあり、事前に価格を固定することは難しいと思います。しかし目安価格を提示しなければ、いかなる商談も始まらないのがビジネスです。
そのため《一般的な目安価格を提示》しながら、更なる精査に顧客を応じさせる必要が出るのです。最終価格は、その精査の後に決まります。

10.相談への解答は取組みの方向性の示唆

以上のように捉えると、無料相談への解答は『こんな方向性での検討が必要です。必要なら支援します』という、会計事務所からの《方向性示唆と支援提案》に他ならないということです。決して、すぐに解決を手伝うことではありません。それは前述の通り、リフォーム業者の見積りのようなイメージです。費用が掛かる時には、その見積が提示されます。
そして、この発想があいまいだと、『頼まれたことはするしかない。だって、顧問契約があるから…』という感覚から自由になれないため、無料奉仕を強いられるケースが増えるわけです。
ビジネス上《相談受付》は《支援業務の提案》に繋ぐための無料行為であるはずなのに、それを顧問料の付加価値としたところに、結果として《答える義務》を発生させているのではないでしょうか。

11.厳しさを増す先行きに《輝く可能性》

以上のような《無料相談》《業務の概要あるいはサンプル提示》《目安価格提示と更なる見積》のステップを意識し直すだけでも、会計事務所の有料ビジネスの範囲は大きく広がるはずです。しかも増資のような特殊なものばかりではなく、資金収支やコスト管理、在庫管理や予算の簡便な作成法等、会計事務所にとっては《当たり前の業務》の有料化も、イメージに乗って来やすいのではないかと思います。
無料相談の答は『こんな方向で検討をしたらいいですよ』までであって、その内容の実行は《別》の話だと割り切るだけで、今の体制やサービス内容を変えずに有料化チャンスを拡大できる…、そんな風に捉えるなら、まずます厳しくなりそうな先行きに、大きな可能性が見つかりやすくなるのではないでしょうか。

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