税務申告のe-Tax化や、《インボイス対応》あるいは《電子取引の電子データ保存義務》等で、中堅中小企業の経営意識は変わり得ているのでしょうか。変わるとしたら、それを会計事務所の新たなメリットにできるでしょうか。ご一緒に、今後の方向性を捉えてみたいと思います。

1.国が作る《システム》は使いにくかった

国が作るシステムは使いにくいと言う声もあります。しかし、多種多様な企業の経営スタイルを、1つの決め事やシステムで包括するのは、むしろ至難の業でしょう。皆に使いやすいシステムは、なかなか作れないと言うことです。
ただ、株式上場時のような総合的な審査を受けず、税務監査を受ける機会も多くない中堅中小企業の経営や経営感覚あるいは経営実務が千差万別であることも、同様に致し方ないと思います。そして、そんな《どこまでが正当だと言えるのかも分かりにくい》ような多様性の中に、1つのシステムでクサビを打つ政策が、多様な問題を残したとしても、決して総体的に非難されるべきものではないはずです。

2.経営者からは更に遠ざかる税務申告業務

ただ、税務電子申告を《煩雑過ぎる》と思ったり、《自分とは縁遠い》と感じたりする経営者は、確かに多いでしょう。ここ数年で、従来以上に『税務申告は全て会計事務所に任せる』という認識を自己確認した経営者も少なくないと思います。
ただ、改めてそんな意識に立つと、つまり『自分の手が益々決算に届かなくなるし、押印する際にあった説明も受けられなくなるかも知れない』と、経営者が感じてしまうと、ある種の不安が湧き立ちやすくなるのも現実だと思います。その不安とは『申告(=税務決算)で、自分は気付かないまま損をしていないだろうか』という素朴な思いかも知れないのです。

3.室内に分厚いカーテンが吊るされたら…

それは、オフィスの中に1つの分厚いカーテンが吊るされた時に似ています。今まで気にもしていなかった《向こう側》が、カーテンのせいで、気になって仕方がなくなるのです。気になって仕方がないのに、カーテンの向こうに容易には行けないとしたら、『あちらで(自分の意向も確認せずに)勝手なことをしているかも知れない』という妄想も起きてしまいそうです。
そこまで行かなくても、税務申告業務とは別に、『私はもっと業績をチェックしたい』という意識が生まれやすくなる可能性は、決して小さくないと言えそなのです。

4.もうリップサービスではごまかせない!

『いや、今までも経営者は決算データに、それほどの関心を示しては来なかった』と言いたくなります。しかし、それでも『少なくとも決算書を読めるようになりたい』とか、『もっと勉強したい』と言う経営者は、少なくなかったのではないでしょうか。
そして、たとえそれが《リップサービス》だったとしても、今や『何をどこまで勉強(あるいは管理)するか』を、改めて考え直してみたくなる気分になりやすいのも事実ではないかと思います。税務申告のためではなく『自分にも分かる決算データが欲しくなる』ということです。

5.益々大きくなり得る会計事務所の存在感

それはいずれ《管理会計》の重要性への気付きに繋がり得るでしょうが、その前に、まずは《税務上で自社の負担を軽減する方法=利益拡大や資金収支の改善》を考えたくなるはずなのです。
たとえば、これまで無頓着だった固定資産の減価償却や不良資産の損金処理に興味を示したり、在庫管理の意味を改めて考えたりする機会になり得ると言うことです。財務諸表をベースに経営を支援あるいは指導する会計事務所の存在感は、今以上に大きくなりそうです。

6.金融コストを価格に跳ね返していない?

それ以前に、経営者が自社商品の価格を決める時、相場は見ても《自社コスト》には、それ程注目しないという傾向があったかも知れません。『いやあ、私は社内のコストは全て把握している』と言う経営者も、もしかしたら《金融コスト》は目に入っていなかったかも知れないのです。
借入が多く、金利負担が大きいのに、それを包み込むような価格設定をしていないケースが、しばしば見られるからです。《中小企業は万年赤字体制》の原因の1つに、その価格政策上の《重大な意識漏れ》があったと言えるかも知れません。

7.経営者が気付くべきは経営判断の重要性

そして、そんな《経営判断上の課題》に気付くなら、外的な相場よりも《自社事情》を考慮し、難しくとも《段階的な価格引き上げに取り組もう》とする経営者は増えるはずです。相場という言葉に押されて『仕方がない』を連発して来た経営者も、自社の首を絞めて来たのは相場ではなく、自分自身の不見識だと気付かされるからです。
それは確かに、デジタル化の結果と言うより、制度等の《変化全般》がもたらす効果なのかも知れません。しかし、今後の最大の変化は、より深まるデジタル化から発生し続けると言えるのも事実でしょう。

8.今後の変化の大部分はデジタル化が担う

そのため、e-Taxを皮切りに、今後《AI化》までどんどん進みそうな《デジタル化潮流》の中で、経営者の意識が《どう》変わって行くかを観察することは、非常に重要になり得るのです。そして、その潮流のマイナス面ではなく、《経営者の意識変化による会計事務所の新たなチャンス》の目線から捉え直すと、会計事務所業務にも、有意義な《変化ポイント》が見えて来る可能性が高いのです。

9.千差万別の企業事情に合わせた個別指導

たとえば、『今後デジタル化が進んで、益々見えにくい部分が増えますから、社長、このポイントだけは見失わないようにしてください』と勧めた後で、『その前に、財務諸表の基礎学習は必要かも知れませんね』として、経営者を会計事務所に招く《有料基礎講座》を企画できるようになるかも知れないからです。
そして、ほんの少しでも《見識》が深まれば、経営者の意識は《管理会計》すなわち《計画経営》に向かいやすくなるでしょう。
しかも、デジタル化がどう進んでも、中堅中小企業の事情は千差万別でしょうから、一般的な経営論や包括的な教育システムではなく、個々の経営者に寄り添って《必要な部分》だけを教える存在が益々重要になるのです。家庭教師が、学ぶ側の学力・見識向上にも教える側のビジネスとしても有効になり得るように、その個別指導は、Win-Win関係を形成する第一歩になりそうです。

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