(執筆:森 克宣 株式会社エフ・ビー・サイブ研究所)
1.今や問題解決自体が難しくなった?
以前、《分析》とか《反省》と呼ばれる活動は、問題を見つけ出して、それを解決するためにあったと言えます。ところが最近では、問題を見つけても《解決出来ないケース》の方が増えているのです。
極端な例ですが、たとえば組織の高齢化という《問題》に対して、『もっと若手を採用しましょう』と言えたのは、既に昔のことでしかありません。そのためか、問題を指摘されることに、以前以上に嫌悪を示す経営者も少ないとは言えないのです。
2.頑張るだけでは何ともならない昨今
問題指摘を嫌がると言うよりは、『分かり切ったことを言うな。それができるなら、とっくにやっている』という《気分》なのでしょうか。そのため《決算分析》とか《業績結果の反省》に、前向きに取り組めない気分に陥る経営者が多いのでしょう。
若い経営者でも、『資金繰りを安定させるには、売上や売掛回収期間をここまで改善しなければならない』と言われて、『分かりました。ありがとうございます』とは言いにくいでしょう。今はかつてのような《頑張れば何とかなる》環境ではないからです。
3.できそうなテーマをイメージする?
しかし《分析》が《問題⇒反省⇒改善》ではなく、《業績検証⇒詳細確認⇒可能性探し》という発想に立つものになったらどうでしょうか。
組織が高齢化するなら、若返りを考えるより、年齢構成に合わせた商品へのシフトや業務方法を考えたり、機械やシステムの力を借りたり、仕入先と原材料納品方法を検討したり、部分的な外注を考えたり…、そんな可能性を追い掛けようと試みるわけです。
どんな風に《商品や業務》が変化すれば、どんな成果が期待できるか、概算でなら見込み計算が可能なケースも少なくないでしょう。
4.できそうな部分探しに挑戦してみる
売掛回収でも、自社や取引先等の《締め日》を意識した販売や納品タイミングを工夫するなら、多少とも《前進》できるかも知れません。取引先の中には、少しの値下げ等で売掛期間の短縮に応じる先も見つかるかも知れないでしょう。もちろん、その際には、値下げ幅と運転資金削減の《比較計算》になります。
最初から全体的な成果を出すのは困難でも、《小さな成果を積み上げて行く》ことは、案外可能かも知れないのです。
5.決算分析の目的を前向きに変える!
そんな《可能性探し》が《決算分析の目的》になるなら、経営者の中には《決算分析を起点》として《活動の方向性を模索し始める》人も出て来るでしょう。当初は、そんな経営者が少なくても、事例承継等で変化が波及して行く可能性は、決して小さくないはずです。
ただし、こんな風に《決算分析》を捉えると、今度は会計事務所サイドに《問題》が出る可能性があります。それは、『そんな助言ができるのか』という疑問です。
6.問題を解決してあげるのは不可能?
ただ、その疑問は《助言》とは《問題解決をしてあげることだ》という、こう言ってよければ《思い込み》から来ているのではないでしょうか。
確かに《企業界》では、『ソリューション(問題解決)のお手伝いを差し上げます』という経営支援会社の広告が増えて、いつの間にか『解決代行が出来ないなら口を出すな』という空気がみなぎっているかも知れません。
しかし、外野ではなく経営者自身が動かずに解決できる問題はあり得ないのです。
7.そもそも助言とは《ヒントの提供》
そもそも助言とは《ヒントの提供》です。たとえば、『この大口顧客に、締め日を〇日前倒ししてもらえば、ここまで運転資金を減らさる』というヒント提供が助言にあたると言うことです。
それを《どう実現するか》は経営者の課題でしょう。もちろん無理かも知れませんが、《検討と試行なしに実現はない》のが現実ですから、試してみることは大事です。それ以前に、試すことがあると感じ得ることが、気分を前向きにしてくれるものです。
8.丸投げ経営者に手を貸さなくても…
会計事務所は『ここの数値がこう良くなれば、業績ばかりではなく資金収支もこんな風に変わります』と、数値で指摘するだけでも助言の役割が果たせるはずなのです。そして《天は自ら助くる者を助く》という原則に立つなら、会計事務所に《解決代行》を振って来る経営者に手を貸さなくても、天罰は下らないでしょう。
それでも、その経営者は、受けた助言に《いつか自ら試したくなる時》が来るかも知れないのです。助言とは、そんなものだと思います。
9.会計事務所が普通にできる経営支援
以上のような意識転換を誘うためには、《決算分析》あるいは《業績反省》の目的が《効果が大きい可能性探しにある》と、経営者自身が意識できなければなりません。
会計事務所は、『こうすれば儲かるよ』というアイデアは出さないけれど、たとえば『ここに注力するのが業績上あるいは資金繰り上で効果が大きいのではないか』と指摘してくれるという期待あるいは信頼を、経営者に持ってもらうことが重要になるのです。
10.花咲か爺さんのココ掘れワンワン?
そのためには、経営者に向けて《可能性探し》を語る《文書》を持つべきでしょうし、実際に先生方が《可能性をどの部分で探すのが効果的か》を客観的に語る習慣を身に付ける必要が大きいと思います。それは、たとえは悪いですが《花咲か爺さん》の『ココ掘れワンワン!』に似た助言を心掛けるということです。
そしてそれは『これが問題だ』という表現を、『これを、たとえばココまで改善する方法を探せないでしょうか』という問い掛けに変えることから始まると言えるのです。

