1.新規関与先開拓が困難化した本当の理由

会計事務所の新規先開拓は、従来、決算代行を中心とした顧問契約でした。そして、その顧問契約に競争力をつけるため、様々な付加価値を付けることが王道だったはずです。
今日、そうした形の新規開拓が、既に高い壁に直面していることは、申し上げるまでもありません。しかし、そんな壁ができた理由は、必ずしも市場の縮小による競争の激化だけではなさそうなのです。
では、どんな理由があるのでしょうか。それを掘り下げてみると、まだ多くの新規先獲得チャンスが残されていると思えて来ます。

2.ビジネス主体の顧客独占体制が崩れ去る

以前の私たちは、どちらかと言えば《オールインワン》とか《ワンストップ》を好む傾向があったと思います。パソコンもオールインワンの方が使いやすいと感じましたし、社外に業務を依頼するなら、何でも窓口になって引き受けてくれるワンストップ体制が、便利で安心できたからです。
ところが今日では、ノートパソコンを買った時でさえも、モニターやキーボードは外付けで別のメーカーから買うのが当たり前になって来ました。なぜなら、メーカーにも得意と不得意があるとともに、顧客が《自分の用途にかなったもの》を個々に選ぶようになったからです。
技術の急速な進歩が、既に特定メーカーの顧客独占体制を壊しているのです。

3.高度専門サービス業では《どう》か…?

会計事務所のような高度専門サービス業でも同様です。システム化やネット対応等が進んで、顧客の《視野》が広がると、ワンストップよりも《自社に役立つサービスを個別に探す》ようになります。
それは必然的に、決算と付加価値をオールインワンで捉えるのではなく、たとえば《決算業務のみ》に目を向ける姿勢を生むのです。すると『単に決算を依頼するだけなら、深い見識はなくても、安価な決算代行でよい』という結論に至ることもあるわけです。
しかも、その発想からサービス内容を捉え直すと、『会計事務所は、(わが社では使わない)付加価値サービスがあるから顧問料が高いのだ』という結論に達してしまう恐れも出てしまいます。付加価値の存在が、逆に足かせにもなり得ると言うことです。

4.新規開拓時のワンポイント主義の定着化

こうした傾向の中で、一般の企業でも、新規先を開拓する時には《総合力》より、内容を特定した《個別案件の提案》を行うようになったと言えます。たとえば、健康サプリビジネスでは、総合的な商品のラインアップの前に、たとえば《内臓脂肪の燃焼》に絞り込み、無料サンプル供与等のあの手この手で、新規先を獲得しているわけです。
もちろん、顧客獲得後は《商品ラインアップ》が効いて来るのですが、その際でも、提案力のある企業は、一つずつ次の個別商品を提案します。提案する商品は有料だからです。
もちろん、それが全てではありませんが、見識の高度化が進む中で《専門業にも得意と不得意が出ている》ことを知る顧客層を、顧問契約のような包括契約で囲むことは今後は難しくなっていくと捉えるべきでしょう。

5.ワンポイント主義はむしろ新たな好機!

しかし、この傾向は悲観すべきことではありません。なぜなら、会計事務所の従来の付加価値あるいは付加価値+アルファである、収支見通しや資金管理法の提供、決算分析による改善点の発掘、予実管理や経営計画の導入等の中から《単独商品》を選び出して、それを有料提案するような活動を展開しやすくなるからです。
顧問契約で新規先を発掘しようとすると《奪い合い》の問題が出ますが、たとえば計画経営にテーマを絞り込むなら、奪い合いではなく、まさに《顧客の選択》の結果に他なりません。しかも、更なる工夫の余地もあるのです。

6.テーマをステップごとに分解してしまう

もしかしたら《予実管理》や《経営計画》でも、いわゆる《単独商品》としては、絞り込みが緩過ぎるかも知れません。なぜなら、完成形のイメージが湧かない経営者に《完全な仕様》を提示しても、導入の判断には、なかなか難しいところが残るからです。
そこで、たとえば『納税等のための財務会計以外に、経営者ご自身の判断材料を作る管理会計というものがあるのですよ。ちょっと役員会等で勉強会を始めませんか?』というところまで絞り込んでみます。
あるいは、『予算よりも何よりも、まずは、ご一緒に収支見通しの作成にトライしてみましょう』という類のアプローチでもよいかも知れません。
第一歩が的確なら、それに《関係の発展》が続くことは、想像に難くありません。そして、いつの間にか《決算依頼》も転がり込んで来るかも知れないのです。

7.顧問契約にこだわるから先が見えない?

その意味では、むしろ、従来型の顧問契約方式にこだわるから新規先獲得のチャンスが見えにくいとも言えそうなのです。一部では、AI等の発展で、会計事務所は不要になる等と言われますが、不要になるのは《顧問契約方式》であり、決して《会計事務所が有する経営管理の着想や見識ではない》と、改めて捉え直すべき時に、今来ていると思います。
そんな風に捉え、現在の顧問先外で、たとえば計画経営を提案すれば、それが成立してもしなくても、その体験から、顧問先にも有料で計画経営を提案できるようになるかも知れません。もちろん今は移行期ですから《既存の顧問契約》にも配慮や防衛が必要です。

8.このコーナーの狙いは…?

このコーナーの狙いは、以上のように、社会感覚あるいはビジネス感覚の変化に合わせながら、新たな関与先や顧客先を獲得する方法を、少し視点を変えてご一緒に考えることにあります。もちろん、今はまだ移行期ですから、新規顧問先開拓に関しても、《経営者が学ぶべきストーリーのある提案(そのままセミナーにも使えそうです)》で、可能性を追求することも、決して忘れてはいません。
しかし、少しでも発想を変えなければ、昨今の社会意識の変化から取り残されてしまう懸念が、濃厚になりつつあるのです。
なお、ピンポイント契約が成立した先や、既存の顧問先や関与先との関係で、《新たな提案チャンス》を探し出すテーマは、《収益源発掘》コーナー特設:計画経営指導の中でも取り上げています。また、新規先開拓法の1つとしての《セミナー実践》にも、ご注目下さい。

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