何か新しい取り組みを始めようとした時、まず直面する壁は『時間の余裕がない』という現実かも知れません。新しいことでなくとも、何か問題が発生した時や、業務等の流れを整理したい時にも、やはり《時間がない》という状況が立ちはだかります。
関与先がそういう状況なら、『だからいつまでたっても、事態が改善しないのだ』と言いたくなるかも知れません。しかし、そんな状況から脱却する方法があるのでしょうか。

1.新たに何かを始めようとした時に陥りやすいこと

たとえば《ゴルフ》を始めたいと思い立った時、当然ながら、いきなりテレビで見るようなゴルファーにはなれません。とりあえずは、クラブを購入しなければならないですし、靴も必要です。近隣の練習場も探す必要があるでしょう。
そして何よりも、既にゴルフを始めている人のアドバイスが必要になります。そもそも、どうすればゴルフコースに出られるのかも知らないからです。あれこれ考えていると、『何から手を付ければ良いか分からない』というストレス状態に陥り、気ばかり焦って何もできなくなってしまいます。

2.目標が定まってもそこに至る《手順》が見えない

何事を始めるにも、たとえばゴルフコースに出るという《最終目的》を定めても、そのために《何にどんな手順で取り組むか》が見えなければ、一歩も先には進めません。しかも《手順の想定》には、まとまった時間が必要になります。しかし、次の休みもその次の休みも、予定が入っていて『時間がない』のです。
ゴルフなら、諦めても大過はないでしょうが、これが《新商品開発》や《新規顧客の開拓》あるいは《設備更新の検討》等なら、諦めているわけには行きません。しかも、いたずらに手をこまねいていたのでは、ある日突然、事業の命運を左右するような、大きな問題にぶつかってしまいそうです。
では、なぜ《時間がない》のでしょうか。

3.その状態で発するのが『時間がない』という言葉

『時間がないという現象がなぜ起きてしまうのか』については、上記に既に答が出ているとも言えます。それは『何から手を付ければ良いか分からない』からに他ならないからです。
もし、柔軟な発想の持ち主なら、『何から手を付けるか』について、経験者に話を聞くのではないでしょうか。話を聞く時間がなければ、ネットからでも書籍や雑誌からでも情報が得られます。普段テレビを見る時間程で、ヒント情報の入手ができるのです。
そして、クラブと靴とレッスンDVDを買って、とりあえず始めてみようと思うわけです。それが、まず《できる》ことだからです。

4.とりあえずでも《できる》ことを探し始めると…

とりあえず《できる》こと、つまり《手を付けられる》ことに着手すると、クラブや靴選びにさえ、ウキウキすることがあります。しかも超初心者向けのDVDは、案外見ごたえがあるのです。
ちょっと恥ずかしさは残りますが、練習場デビューがしたくなります。そこまで行くと『時間がない』はずなのに、急に時間作りを始めるのです。そして『来週のアポ、再来週に延ばせないかなあ?』等と、関係者にオファーを出したりするのです。
その時、『私には時間がなかったのではなく、最初に手を付けるべきことを知らなかっただけだ』と気付くのです。

5.できることから始めると逆に時間を作りたくなる

その後は、練習場に通うスケジューリングに余念がなくなるでしょう。練習場で、ゴルフの分野では先輩にあたる人と親しくなれれば、コースに出る方法を教えてもらえるかも知れません。ゴルフ場には、会員にならなくても使える《パブリックコース》があることも知りました。
一応、ドレスコードもチェックして、相応のウェアも揃えます。そして、知人にエスコートを依頼する形で、コースデビューの日取りを決めると、それに合わせた猛練習が始まるのです。『時間がない』と言っていた人とは別人のようです。

6.時間がないと感じたのは計画的でなかったから…

もちろん《ビジネス》でも《マネジメント》でも同様です。『時間がない』のは《計画的な活動をしない》からであり、計画的な活動ができないのは、《最初に取り組むべきことを決めない》からなのです。
では、マネジメントを計画的に進める、あるいは着実な経営革新に取り組むために、最初に手を付けるべきことは何なのでしょうか。結論を急ぐなら、それは《今、ここにある経営上あるいは事業上の問題の把握》に他なりません。

7.経営上で最初にできることに取り組んでみると…

自社では、人材を確保できないのが問題なのでしょうか。それとも、商品原価が高いのが問題なのでしょうか。あるいは、取引先が協力的ではないとか、経営者に適切な情報がタイムリーに入らないとか、様々な問題が見えて来るかも知れません。
その時、先にゴルフコースに出ることをイメージしてしまうかのように、『問題が見えたら解決を…』とは急がず、《問題の観察》に没頭してみると、今までとは違う景色が見え始めることが多いのです。
原価が高いからコストダウンをと考えていたのに、よくよくデータを見ると、返品の多さに気付いたりするからです。すると『なぜ返品が多いのか』を調べてみたくなります。その時、『そうだ、次回の飲み会を欠席しよう』等というスケジュール調整が始まるでしょう。まさに《時間を創造し始める》瞬間です。

8.表面的な現象の裏に《隠れていた》問題が見える

商品価格の値上げは難しいかも知れませんが、返品の削減は工夫次第で可能かも知れません。ただ、可能であっても、問題解決までにはいくつもの手順が必要になります。一気に右から左へと解決できるものではないからです。
そう捉えた時、経営者の思考は自然に《計画的》になっているでしょう。つまり《問題の段階的な解決》を意図するようになるということです。それは、どんな問題も、段階的にしか解決できないからです。
そして、頭が《計画的》になると、空き時間をうまく使うようになって来ます。更には、積極的に時間を作ろうとするようになります。もはや『計画経営への取組み? そんな時間の余裕はない』と言っていた頃とは別人です。

9.計画手法ではなく問題の把握が計画経営の原動力

誤解を恐れずに申し上げるなら、経営者が計画経営に向かわないとしたら、それは恐らく、完成された計画手法を教えようとしているからかも知れません。そんな学術?的な手法を学ぶ時間は、経営者にとって、確かに惜しいでしょう。
しかし、まず《問題の発見とその観察》から入り、まずは《その解決》のためにスケジュールを作り、《解決の可能性を探る》ためにシミュレーションを行い、《解決策を実行する》ために計画を数値で完成するという手順を踏むなら、少なくとも、それは経営者にとって『時間がない』と言えることではなくなるはずなのです。それは《しなければならない》ことであり、しかも《手順を踏めばできる》ことだからです。

10.事業体にも会計事務所にも実りが大きい計画経営

《全てのプランは問題発見から始まる》と言われることがあります。『いやあ、夢からも始まるだろう』という反論もあるでしょうが、大谷翔平のような強い意志がなければ、夢は夢で終わることの方が多いでしょう。しかし、問題を見つけてしまったら克服するしかありませんし、克服には時間が掛かるため、計画的にならざるを得ないのです。
いきなり予算や経営計画を進めるのではなく、まず決算データなどを参照しながら、『なぜ、ここにこんな数値が出てしまうのでしょう。社長、その問題の源をご一緒に探してみませんか?』と誘うところから、計画経営の指導が始まるということです。
そんな発想で捉え直せば、業務支援料を明確化するだけで、計画経営は企業にも会計事務所にも、実りが大きいものになり得ると言えそうなのです。

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