会計事務所には《顧問契約》があります。しかしこれは《その範囲で何でもする》という契約でしょうか。その再考から、会計事務所の業務有料化の視点が始まります。

1.契約獲得の支えになって来た付加価値!

申し上げるまでもなく、伝統的に、顧問契約を《高い水準》で獲得するには《付加価値》が必要だとされて来ました。そしてその《付加価値》の中には、決算にかかわる相談業務のみならず、いわゆるMASのテーマの多くが含まれていたかも知れません。
場合によっては、収支見通しやそれに伴う《資金繰りアラーム》が、顧問料の範囲内で、あるいはわずなかな追加料でサービスされて来たかも知れないのです。確かにそれが、順風満帆事業者に対するものなら、手間も少なかったでしょう。

2.経営力がない企業ほど手間がかかる現実

ところが、資金繰りに問題を抱える企業では、アラームを出されるだけでは不十分です。そのため『資金調達を手伝って(代行して)欲しい』とか、『金融機関への返済計画を作って欲しい』と言われ始めてしまいます。『あれもこれも』の始まりです。
そして『返済計画を作る業務なら有料化できる』と言える時でも、その対価水準は、本当に業務に見合っているでしょうか。計画作成自体は軽量業務でも、それを経営者や担当者に《理解》させる教育業務は、容易なレベルではおさまらない時があります。

3.有料化が必要以上に難しく見えてしまう

そんな時『計画の詳細を1から教えるなら、応分の費用をいただきます』とは言いにくいでしょう。すでに計画を作った後でもありますし…。ただそんな、こう言ってよければ、断片的な事情を捉えて、業務の有料化は難しいとするのは、早計かも知れないのです。
その前にすべきことがあります。そのすべきこととは、『顧問業務あるいは付加価値業務とは、いったい何をどうすることだったのか』と、原点に立ち返ることです。

4.まず、考え直すべきは《顧問料の対価》

では、顧問料の対価とは、どのようなものなのでしょうか。もちろん、その内容は多様かも知れません。しかし少なくとも、『決算とその周辺に関わることなら、御社の業績を熟知していますから、その範囲で《ご相談》に応じますよ』という、アドバイス業務に他ならないでしょう。英語で顧問は《アドバイザー》です。コンサルタントではありません。
つまり、極端な言い方をすれば『アドバイスをするから、実施に関しては御社で取り組んでください』という契約だと、まず先生方が腹に据えることが大事になるわけです。
実施の支援まで求められるなら、それはアドバイス業務外のものであり、コンサルティング料の提示は不可避です。

5.では《付加価値の対価》とは何なのか?

しかし付加価値の対価は、案外把握が難しいかも知れません。なぜなら、それは会計事務所業務自体から生まれたと言うより、《契約を有利にするための営業戦略》的な色彩が強かったからです。
会計事務所の営業戦略の効果を上げるには、むしろ事業者サイドが『顧問契約をしたら、会計事務所は、具体的な経営指導をしてくれる』と誤解していてくれた方が好都合です。そして、マネジメントではなく目先の事業推進に没頭する中堅中小企業の経営者からの経営相談は少なかったため、その好都合が崩れるケースも、従来は少なかったでしょう。

6.マネジメントが苦手な企業に明日はない

ところが平成期後半になって、令和に入ってからは益々、計画性(いわゆるマネジメント能力)のない企業に、生き残る可能性が激減して行きます。今までなら、ひたすら頑張るだけで何とかなった事業を、もはや『どうしていいか分からない』という経営者が増えて来たと言うことです。
さて、そんな状況の中で、計画経営(マネジメント)指導に大々的に取り組むか、あるいは無料サービス的な付加価値業務の提供で、こう言ってよければ、お茶を濁すかは、企業にとっても会計事務所にとっても、大問題になって来たとは言えないでしょうか。

7.伝統を受け継ぎながらの新たな価値創造

つまり、会計事務所の業務有料化のテーマには、《新たなチャンスを前に、従来の足かせを外す》という意味あるわけです。それは歴史的な課題であり、ただ単に『儲けようじゃないか』とか『減少した収入を補填しよう』という姿勢で、効果を発揮できるものではありません。
そして、そこには、長年蓄積された契約形態を可能な限り守りながらも、現代の中堅中小企業に本当に必要になったマネジメント技法を提供しようという強い意志と、会計事務所の《今日ではなく明日を創りたい》という思いが欠かせないと思います。
そんな『伝統を受け継ぎながら新たな価値を生み出す』発想から、業務有料化の課題に、シンプルにかつ大胆に取り組むべき時に、今来ていると言えるのです。