その時々の《経営判断》が将来を変える
企業の規模にかかわらず、経営判断が将来の《事業の姿》に影響する度合いは、以前に比べて益々大きくなったと言えそうです。なぜそうなのでしょうか。そして、今《経営》と《経営支援》に何が求められているのでしょう。
(執筆:森 克宣 株式会社エフ・ビー・サイブ研究所)
1.本当に昔は頑張れば何とかなった?
ある経営者から、『私の若い頃は、とにもかくにも頑張ったら何とかなった。だから、特段、経営判断力が必要だとは感じなかった』という話を伺いました。しかし、よく考えてみるなら、『頑張ったら何とかなるから判断力は必要ない』という捉え方には、一種の矛盾があるようにも思えて来ます。
『頑張れば…』が本当だったとしても、『ここで、これを頑張る』という判断がなければ、何事も成就しなかったはずとも言えるからです。
2.昔ながらの《判断》が通用しない?
つまり、当時の経営者の多くは、『いつ、あるいはどこが頑張りどころなのか』あるいは『頑張る方向はこれでよいのか』等に関する判断を下していたということです。もちろん、《多様な頑張り方》の中で、取り組めそうな方法を選ぶという《判断》もしていたでしょう。
しかし《頑張りどころ》を捉えたり、《方向性》や《方法》を特定したりして頑張っても、なかなか成果が出ないのが《今日の実情》であり《今日的な経営課題》と捉え直すなら、《今の問題の本性》のようなものが見え始めます。
3.将来イメージを持てないことが問題
では、その《本性》とはどのようなものなのでしょうか。それを一口に捉えるなら『先々のイメージが持てなくなった』という、言葉にすれば当たり前のものでしょう。つまり、判断のベースとなる《先行きイメージ》が、あいまいなのです。
たとえば以前は、高級レストランには《ドレスコード》がありました。男性はジャケット、女性はドレスが基本だったのです。しかし今では、ドレスコードは殆どありません。正装して行ったら、自分達だけが《浮いていた》ということがあり得るのです。
レストランでなら、それでも大した問題ではありませんが、ビジネスでは小事では済まされないでしょう。
4.今日の経営判断が難しくなった理由
つまり今日では、先行きのイメージや目標を想定した上で、それをどのように実現するかという《経営判断》が難しくなったということなのでしょう。
ややかも知れませんが、敢えて言うなら『以前は、カーナビに目的地を入れるかのような目標設定で、あるべき活動の選択ができたが、今は《経営のカーナビ》に別の役割を担わせなければならないケースが、圧倒的に多い』ということなのだと思います。
5.今日的な経営のカーナビの活用方法
経営のカーナビの別の役割とは、目的地への誘導ではなく《今どこにいるか》を把握することにあります。最終的に《どこ》に向かうべきかが捉え切れなくても、《今の位置》を把握し、それが《自社事業によって有益か有害かを判断》するということです。
具体的に言うなら、それは先々の見通しを立てようとするのではなく、現状の《事業収支構造》から《損益分岐点(ブレークイーブンポイント:BEP)》を捉え、それがクリアできているかどうかを《基準》にするということです。
6.新たな経営判断上で求めるべきもの
そうした基準下での事業活動では、やむを得ず《好ましからざる方向を強いられる》ことがあるかも知れません。あるいは逆に、《BEPを重視し過ぎると高い目標を設定しなくなる》ケースもあり得るでしょう。
しかし、好ましからざる状況を、どの程度受け入れるか、BEPを大きく超える目標の是非をどう捉えるかが《新たな判断》になって来るのです。《目標設定とその実現》が、これまでの経営判断の中心だったとするなら、今後は《余裕の確認と創出》が中心になるということです。
7.本来的な経営管理への回帰の必要性
その《変化》を一口に捉えるなら、計画を作ってマネジメントに取り組むニュアンスが強い《計画経営》の発想から、現状を把握しながら《状況に応じて事業活動の舵を切る》という《本来的な経営管理への回帰》だと言えるかも知れません。
そして案外、その《回帰》の方が、高度な予算や計画を作らないで済む分、経営者にも受け入れられやすいのではないでしょうか。そして《損益分岐点の把握》なら、現状分析が基本になりますから、会計事務所にも指導がしやすいはずなのです。
8.見識の浅深を超えた経営らしさ実現
もちろん、過去の実績をベースとした《BEPへの意識》を中心に経営を行うだけでは不安は消えません。そのため、それが《当期の実際の事業収支にどう反映されているか》の確認は必須でしょう。
ただ、そう捉えれば捉える程《月次試算表の存在価値》が高くなります。月次の業績管理の意味が深くなると言うことです。場合によっては、月次の実績把握の中で、たとえ超概算でも《BEPの修正》が必要になるケースが出て来るでしょう。それは、理論的なレベルがどうであれ、経営が経営らしくなる瞬間です。
9.BEPには少なくとも2種類がある?
ただし、問題が残ります。なぜならBEPは1つではないからです。《事業収支のBEP》の他に《資金収支のBEP》把握が必要になるということです。そして、《資金収支のBEP》は、限りなく《財務業務》あるいは《財務センス》に近付いて行くのです。
もちろん《財務センス》を持つ経営者も少ないとは言えませんが、国の運営でも、経済産業省と財務省が分かれているように、中堅中小企業でも《事業推進者=経営者》と《経営者を財務的に補佐する人や機関》が必要になるでしょう。
10.経理から財務への支援ウェート移行
その際の財務的な補佐機関は、会計事務所の基本的な役割の1つになるはずです。そして、それは単に《資金収支見通しの提供》に留まらず、《資金収支を悪化させる要因への警告や改善示唆》あるいは《直接的な資金調達支援や資金調達を有利に進めるための財務体質改善示唆》等、かなりの範囲を含みます。
しかも、その財務支援は、事業の規模に左右されるものではありません。中小企業でも、財務が行き詰まれば事業は終焉するからです。ただ、中小企業では、社外の株主ではなく《自社株オーナーの経営者に分からせる》だけでよいため、支援もかなり簡素化する余地が出て来るはずなのです。
11.益々重要になって行く経営者の教育
支援簡素化のキーを握るのは、もちろん《経営者自身の見識や知識》の他なりません。そのため、たとえ少しずつでも、経営者に《伝統的な経営法が通じなくなった》という現実と、《今日的な経営法はBEPの把握から始める》という将来像を《示す》べき時に来ているとも言えるのです。
経営者がメリットを感じる程に《理解》し始めるなら、支援の有料化はむしろ容易でしょう。ただし、そのためには《経営者教育?》への取り組みが重要になって来ます。
12.補足:奥が深いBEP起点の経営支援
上記9で、BEPには少なくとも2種類あると申し上げました。《少なくとも》と言うのは、他にも《資産投資や人的投資のBEP》や《事業部門や拠点毎のBEP》、あるいは《商品別や取引先別のBEP》等、多様な部分計算の上で把握するBEPがあるからです。
これらは、事業の積極投資や言葉の真の意味での事業のリストラクションを推進する上で、重要な働きをするものです。BEPを起点とする経営支援は想像以上に奥が深いと捉えておくべきだと思います。
しかも、そんなに奥まで行かなくとも《経営成果》を出しやすいテーマでもあると言えるものでしょう。

