改めて捉え直すブレークイーブンポイント(BEP)
月例情報発信会員の先生方には、本内容は、月刊B&M通信:2026年4月号でお伝えしたことに類似するのですが、ここでは通信内容とは少し異なる視点から、《経営判断のための計算力強化》支援の方向性について、改めて捉えておきたいと思います。
(執筆:森 克宣 株式会社エフ・ビー・サイブ研究所)
1.経営者が抱く業績計算の印象
ご承知の通り、いわゆる業績計算は、商法・会社法や会計原則等に従って行われる《会社計算》です。ただしその目的は、主として会社の債権者や公開株の株主保護にあると言えます。経営者にとって、その会社計算は、むしろ《義務》なのです。
そう捉えると『義務なら可能な限り負担を少なくしたい』と感じるのが自然でしょう。そのため、業績計算に深い興味を抱く経営者が少ないのかも知れません。
2.業績計算は事業の実態を反映
しかし少し異なるスタンスを取るなら、『債権者や公開株の株主の保護のための計算は、どのような理念や手法で行われているのだろう』と考え始めることができます。そうすると、案外容易に『そうか、事業実態を、算出法が明確な数値で表現するなら、後は債権者や株主の判断に任せられるということか』と思えます。
それと同時に、『債権者や公開株の株主の《判断》材料になるなら、私(経営者自身)の経営判断にも役立つのではないか』とも思えて来るのです。
3.業績計算は過去しか語らない
ただ実際確かに、会社計算は経営判断の基礎にもなり得るのですが、それは《過去の実績》に過ぎません。経営者が『今後の方向性(戦略や戦術)を考えたい』と試みる時には、会社計算を一歩踏み出る《経営計算》が必要になるのです。
ところが、その《経営計算》は、学問としての経営学が進化するにつれ、どんどん高度化あるいは複雑化して来ています。会社計算だけでも面倒なのに、様々な想定や前提条件が入る経営計算に、果たして事業実践家である経営者が挑めるのでしょうか。
4.経営者が習得すべき重要な計算法
経営者には学問としての経営学は過剰だとしても、1つ重要な計算法があります。そして、その計算法を活用するセンスさえあれば、どんな経営者でも、後は会計事務所の計算力やチェック力を借りながら『どうにかこうにかでも判断が出来る』と思えて来るはずなのです。
その1つの計算法がブレークイーブンポイント(BEP)を探し出す計算なのです。
5.実績の分析や反省に際しても…
たとえば、昨年度の実績分析でも、どの商品の売上をどこまで伸ばせていたら、利益が出るとともに、資金繰りが楽になったのでしょう。商品原価やコストが、どこまで下がっていれば、損益収支や資金収支が《イーブン》になったのでしょう。そんな反省が、その後の事業活動改善のベースを形成し始めます。
逆に、利益が出ているケースでは『この商品はどこまで値下げが可能か』と考えてみたり、『増販のための販促や投資の年間負担をどこまで増やせるか』というBEPの計算をしたりすることが、《経営の次の一手》を絞り出す重要なベースになるのです。
6.BEPの計算は多種で多様
大々的な投資ではなく、たとえば飲食店が店内改装に取り組むようなケースでも、どれほどの売上アップがあれば《投資回収=投資のBEP》ができるのでしょう。大々的な投資の場合はなおさらです。
そんな風に考え始めると、確かに会社全体のBEPばかりではなく、1商品のBEPや新規採用者のBEPまで、試算してみたくなるのではないでしょうか。しかも、その時《業績計算=会社計算》による現状の把握が役に立ちます。1商品の原価数値はなくとも、会社計算をベースに《推定試算》が可能だからです。
7.経営者が経営者らしくなる瞬間
そして、BEPに満たないケースでの《改善法探索》や、BEPを超えるケースでの《余剰の上手な使い方》の工夫等に挑む時こそが、事業規模を問わず、経営者が経営者らしくなる時だと言えるのです。
更に、BEPの有効性を認識するだけで、『①BEP計算はどうすればできるのだろう』『②自分でBEP計算をしてみたが、精査する必要がありそうだ』『③単純なBEP計算ができない時、たとえば事業全体のBEP把握には、どのように取り組めばよいのか』という疑問や意欲が、経営者に生まれ得るのです。
8.経営者の内面に生じる3つの要素
上記①の計算法探究は《学びの姿勢》を生み、上記②の精査へのニーズは《専門見識への敬意》に繋がり、上記③の事業全体のBEP志向は《予算や経営計画への理解》をもたらします。BEP計算が創造する世界は広大なのです。
ただし、BEP計算が《経営判断》の役に立つためには、重要な条件があります。その条件とは、たとえ《概算》であったとしても、BEP計算を《経営者自身ができる》ことです。電卓でもExcelでも手計算でも、とにかく経営者自身が取り組むことが最低条件なのです。なぜなのでしょうか。
9.意味のある前提条件を考えられる
それはBEP計算に際して、意味のある《計算の前提条件》を置ける、あるいは他者が設定した前提条件を《直観的に調整》できるのは、経営者だけだからです。もちろん、それは経営者が優れているからかも知れませんが、実際には、経営責任を負うのは経営者だけであるからこそ《できる》ことなのです。経営者の《レベル》によるものではありません。
一方で、どんなに《素養》があっても、自分で計算しようと思わない経営者、自分で計算しなくても《前提条件》を調整しようとしない経営者には、BEP計算は意味を成しません。そして、BEP把握から始まる《経営判断》も困難になってしまうのです。
10.経営者が信奉されない時代の経営
経営者の勘が従業員に敬意を持って迎えられ、『この経営者にどこまでも付いて行こう』と組織内で信奉されるなら、経営者にBEP計算は、特に必要なかったでしょう。必要なかったと言うより、かつては、経営者を信じて必死に粘る従業員の活動が結果として《好ましい業績》を出してくれていたということかも知れません。
しかし、誰もが批判(者)的精神を持つ現代では、信奉による献身が成果を生むという《奇跡構造》は期待薄なのです。そのため、BEPセンスを経営の武器あるいは《命令実効性説明の武器》として、活用すべき時が来ていると言えるのです。
11.今後の本サイト方針として…
このサイトでも、今後は改めて《BEPを中心とした経営者の計算力向上》の指導や支援の方法を、具体的に取り上げて行こうと考えています。
