『計画的に…』とまでは言わなくても、『もう少し先のことを考える時間を作ってはどうか』と言うと、『そんな暇はない』と、経営者に反論されることがあります。しかし《忙しくても余裕がある人》は、どんな日々を送っているかを、経営者に《正面から話すべき時》に、今来ているかも知れません。
そこで、《1つの事例》をご紹介することといたしました。
目次
1.多忙な状態の克服を支援する名人の言葉
ある名人がいます。《抱え込んだ》問題を片付けるにも、時間が作れないという人を、多忙克服に導く名人です。その人は『忙しい』と主張する人に、まず『何をしなければならないのですか?』と、素朴に質問します。すると『あれがある、これがある』と、多忙に追われる人(多忙人)は、脈略もなく話し始めます。
ところが、2~3あるいは4~5の《用件》を口にした後で、『いやあ、すべきことすら整理できていない』と言い出すケースが多いのだそうです。
2.問題は落ち着いて考えなければ把握不能
そこで、名人は多忙人に『では、今気に掛かっている問題はありますか』と尋ねます。すると、多忙人は『顧客からのクレームがあった』という短期的なものから、『資金調達をしなければならない』という比較的長期的なものまで、いくつかの問題を選び出すようです。
ところが、『もっとあるのではないですか』と名人は追及の手を緩めません。そして、多忙人に《考え》させるのです。すると、徐々に『従業員にミスが多い』とか『取引先が納期を守らない』とか、『売れ残りが多い』とか、『節約ができない』等、問題らしい問題を語り始めるのだそうです。名人は、いったんここで対話を打ち切り、他の問題を探す宿題を出し、次回の対談予定日を定めます。
3.忙しいのは本当に忙しいからではない?
対談を中途半端なところで打ち切る理由は、多忙人のほとんどが『問題の特定ができていない』からなのだそうです。問題を《具体的に把握》する時間を作っていないということです。
そのため、いつも《得体の知れないモノに追いかけられている》ような気分に陥り落ち着かないのです。忙しいと感じるのは、本当に忙しいからではなく、得体の知れないモノに追われる不気味感があるからかも知れません。事実、問題を列挙して行くうちに、多忙人の言動は徐々に落ち着いて行くようなのです。
4.先々ではなく今できることを考えてみる
名人は聞き出した《問題》を、簡潔な《リスト》にまとめます。そのリストを作成するにあたっては、仕事のみならず《家庭の事情》も含むそうです。多忙人は、家庭と仕事の両方に《振り回されている》のが普通だからだそうです。
次に《リスト》に従い、『これについては、どうするおつもりですか』と、一つずつ問うて行きます。もちろん『まだ考えていない』と言われることが多いようですが、それでも『今すぐ対応するとしたら、何をしますか』と踏み込みます。さて、名人は《何》をしているのでしょうか。
5.問題を課題に《変換》することが第一歩
たとえば、従業員がミスをし、そのたびに《クレーム処理に走らなければならない》という問題に対し、『仕事を覚えさせなければならない』と言うかも知れません。それに対し名人は『どのように?』と問い掛けます。そして話を続けながら、たとえば『当人と直属の上司を呼んで、最近のミスの発生過程を説明させてはどうか』という行動提案をするのです。
つまり《従業員のミスが多い》という問題を、《ミスの内容を詳細に確認する》という《行動》に変換してしまう訳です。これは《問題の課題化》とも言えるでしょう。
6.こんな対処を試してみようという思考法
漠然と不安を呼び起こす問題を、まずは『こんな対処を試してみよう』という行動課題に変換してしまうと、『では、いついつ当人と上司を呼ぼう。時間は2時間くらいは掛かるかなあ』という予定が立つようになります。つまり、初歩的あるいは素朴な《計画》が始まるのです。
問題は計画化できませんが、行動課題は計画化できます。そして、多忙人は担当者のミスの発生要因を、たとえ部分的であっても把握します。その時『そこで新たに把握した要因に対し、今すぐになら《どんな対処が可能か》を考えてくださいね』と、名人は示唆するのです。
7.課題への変換が重い問題を《軽く》する
もちろん、他にも沢山問題が残っているでしょうが、従業員のミスの問題については、少なくとも《対談》までは忘れることができます。対談後に出た要因に際しても、《次の対処》を、たとえば『ミスをした当人をクレーム処理に当たらせてみる』という行動課題にしてしまうなら、多忙人は再び問題を忘れられますし、逆に次の問題発見を《楽しみ》にできるような心の余裕を持てるかも知れません。
『問題リスト全体の中の1つでも《問題の課題化》ができると、多忙人は落ち着き始める』と名人は言います。それは、あたかも減価償却のように、重い問題を先行き対応の時間の中に《分散》できるという実感を得るからのようです。
8.計画の《本姿》とその《効用》とは…?
そして、名人は『問題という最大の負担への対処を時間の経過の中に分散できると《今に集中》することができる。それが計画の本姿であり、計画の効用そのものなのだ』という趣旨を語ります。更に、『その計画は、問題を漠然としたままで抱え込まず、また問題にフタをしてしまわずに、問題を課題化すると、自然な形で取り組める』とも言うのです。
逆に、問題を問題のままで放置すると、心の底に《巨大なストレス》が溜まり、それが集中力を阻害する形で《焦り》を生み、平常心ならできることさえできなくなる』と指摘します。
『考える余裕がない』という状況は、そういう時に発生するものなのでしょう。
9.計画性の基礎を確立する4つのステップ
名人によれば、計画性の基礎を獲得して経営に《余裕》をもたらすためには、①問題のリストアップ、②今、精査できる問題の精査、③精査した問題の中で対応の第一歩をイメージできるものの抽出(問題の課題化)、④課題をいつどのように果たすかの段取り決定という4段階が欠かせないようです。
そして計画性を獲得するのが困難なのは、上記①の『《問題のリストアップ》ができないからだ』と言うのです。だからこそ『問題リストアップの支援が、最も重要なコンサルティング』だと主張するのでしょう。
意味深い発想だと思います。
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