案外軽視される経営判断力の基礎強化法
日々事業を実践する経営者に《事業改善法》を指導するのは、冒険と言う以上に《しんどい》ことかも知れません。しかし、経営者を見ていると『なぜそんなことをするかなあ』と感じてしまう時も少なくないのではないでしょうか。そんな時《経営指導の起点》が見え始めて来ます。
(執筆:森 克宣 株式会社エフ・ビー・サイブ研究所)
1.普通に三刀流の中堅中小企業経営者
特に中堅中小企業の経営者は、二刀流どころか、出資者であり、経営者であり、事業活動の先導者という三刀流を《こなす》のが普通です。もちろん、その《こなし》方には格差があるでしょうが、三刀流であることに変わりないでしょう。
ただ『三刀流だから中堅中小企業経営は難しい』と捉えてしまう程には、事は単純ではなさそうなのです。
2.求められる判断力の特質も三者三様
事を複雑にしている最大の要因は《判断力の分野》の問題だと思います。その問題を、可能な限り簡潔に捉えるなら、出資者と経営者と事業推進者では、それぞれが《働かせるべき判断力の特質》が違うということです。
三刀流が複雑なのではなく、《判断力を働かせる分野》を三様に捉えなければならないところがややこしいのです。
3.出資者としての判断力の特質とは?
その《判断の分野》のうち、出資者としてのものは《純資産の意味のある増加》に資する視点でしょう。増加ではなくとも《必要な期間事業継続を支える純資産力確保》がテーマであっても構わないかも知れません。事業にも寿命があり得るからです。
この分野では、判断は必然的に《長期的課題》になりますが、ほとんどの経営者が、あからさまに諦めている分野だとも言いたくなるのです。もちろん、事業承継に熱心な経営者は例外なのでしょうが、事業承継志向者でも、《本来の意味での投資家》ではなく、単なる《節税主義者》に陥りやすいという疑いさえ持ちたくなるからです。
4.多くの経営者は《まるで》運転者的
いずれにしましても、出資者としての判断力は《事業の生命や健康を長期的にどう高めるか》が起点になると言えるのです。
では事業推進者としての《判断の基礎》は、どこにあるのでしょうか。それはたとえば、曲がりくねった道を車で進む時のように、《最終的には確実に目的地に着くための判断力》でしょう。その視点は必然的に、日常的あるいは短期的な傾向を持ちます。そして、日常課題が複雑化する今日、ほとんどの中堅中小企業経営者が、この《ドライバー視点》に、自分自身の全精力を傾ける傾向が強くなったと言えるのではないでしょうか。
5.マネジメント上の判断力の特質は?
では、経営つまりマネジメントに求められる《判断力》とは、いったい《どのようなもの》なのでしょう。それを敢えてたとえるなら、悪路をものともしないドライバーではなく、そのドライバーが《確実かつ安全に目的地にたどり着けるように重要な情報を提供する司令塔》だと言えるかも知れません。
スパイ映画的に言うなら、ドローンを飛ばして周囲の状況をチェックし、ドライバーに『右に行け、左に行け、しばらく止まれ、今は全力で進め』等と指令する《オペレーション・ルーム》的な役割です。
6.レーダー的な情報源になり得る手法
残念ながら、マネジメント上では《可視化された道路》はありませんので、ドローンのように行く手の情報を映像化することはできません。しかし、一昔前のように《レーダー情報を分析する》ような方法でなら、たとえ手探りではあっても方向性発見は可能でしょう。
そしてマネジメント上では、その《レーダー》が捉えるのは地形ではなく、《損益分岐点》なのです。もちろん、事業全体の損益分岐点に限らず、商品別や箇所別、時には取引先別や社内の部門別、人材別のような《個々を対象とする分岐点》も必要になります。
7.もともと事業推進と距離がある要素
先を急ぐ前に、全体であれ個々であれ、ドライバー=事業推進者には《損益分岐点より大事なもの》があることを、改めて思い起こすべきでしょう。その《大事なもの》とは《目標》です。
ドライバーは、距離目標的であれ時間目標的であれ、一定の目標の下に、今日、今月、今年度の活動に勤しみます。そしてそれは《ドライバーにとっては適切な要件》なのです。そして、その《目標が妥当でない》なら、その努力は悲惨な結果を生み出す素にもなりかねないということなのです。
今、多くの経営者が《目標の妥当性》を見失うことで、努力の方向性さえ見出せない状況に陥っているのではないでしょうか。
8.オペレーション的機能を持つべき時
その結果、かつて《目標を掲げて事業運営をして来たドライバー型の事業運営者》は、今《自分独自のオペレーション・ルーム的機能を持つべき時に来ている》と言えるはずなのです。目標の妥当性を判断しないまま、がむしゃらに頑張っても、今の環境では、必ずしも成果が出るとは限らないことを、既に誰もが実感しているからです。
むしろ《無理》は、資金や人材や対外信用関係を消耗させることを通じて、逆効果さえ生み出しかねません。
9.まずはエンジンブレーキを掛けよう
そのため今、《事業推進者》としての判断視点に《エンジンブレーキ》を掛けてでも、まずは《マネジメント者》としての判断力に目を向ける必要があるのです。エンジンブレーキを掛けることで、時間の余裕を創り出すということです。
もちろん、いずれは《出資者・投資家》としての判断力も求められるようになるでしょうが、それは《生涯現役経営者》の数が、もっと減ってからでも良いかも知れません。
10.なぜそれが《損益分岐点》なのか?
ただ、なぜ《マネジメント的判断力》の強化点や有効性が《損益分岐点の把握》にかかっているのでしょうか。それは、車にブレーキとアクセルがあり、ブレーキを踏みながらハンドルで有効な道に進み、有効な道ではアクセルを吹かすのと同じで、多くの経営者にとって《ごく当然》のことだと直観できるはずのことです。
ただ《事業推進者発想》に慣れ切った経営者には、特別な《説明》が必要になるかも知れません。
その際の《説明》と、それに続く《指導》は、相手企業の事業内容を知らないままでも可能なコンサルティングになり得るものであり、それが今多くの経営者にとって重要な《発想転換》の起点を生むとともに、会計事務所にとっては、決して新しい見識を導入しなくても、実施できるものであると申し上げられます。

