変化対応は大変だと言われますが、これまで《変化がなかった》ことなどなかったでしょう。企業ばかりではなく、個人としても《変化に対応する》日々を過ごしていたのではないかと思います。
ただ、昨今の変化対応を《困難》だと感じる際には、その背景に《重大な要因》がありそうなのです。

1.求められるマネジメント発想の大転換

従来、たとえば経営者に『もっと計画(マネジメント)的に経営に取り組んではどうか』と指摘すると、1つの発想が返って来るのが一般的でした。その発想とは『何年先に、これこれの売上や利益を獲得したい。そのための道筋を作ることが計画的経営なんだね』というものです。
それが、21世紀を数年から10年過ぎた頃から一般的ではなくなったようなのです。利益であれ売上であれ、目標を作っても《実現》などしないからなのでしょう。世の中、確かに先が読めなくなりました。

2.目標達成のための計画志向は無意味か

そのため《目標》を設定し、そのために《何をするか》を考えること自体が、今や《空しい》ものになったと言うべきなのかも知れません。既に『計画経営の話をしても、経営者は誰も振り向かない』のは、そのためなのでしょうか。
ところが、そんな状況下でも《先行き見通し》を楽しむ経営者がいます。《楽しむ》と言うと語弊があるかも知れませんが、実際《楽しそう》なのです。いったい何が楽しいのでしょう。

3.経営が《楽しい》と感じ得る時とは?

その楽しみの《根底》には、目標ではなく《したいこと》あるいは、自分なら《もっとうまくやれそうなこと》があるようなのです。それが、ある女性(Aさん)にとっては、エステ(全身美容)でした。それも、若い女性向けではなく、住宅街に住む中高年女性向けの《アンチエージング》美容です。
そこでAさんは結婚と同時に、自宅にエステ部屋を作り、ちょっと離れた住宅街から《ポスティング》による集客を始めます。都市部の繁華街の店で磨いたAさんの《エステの腕》は確かで、順調に紹介が増えて行きます。

4.『もっとやれる』可能性を感じたら…

ただ、どんどんと忙しくなって行く中で、『自宅の一室ではできることが限られている』という《限界》を感じ始めます。大きな機械も入りません。その結果、『駅そばで空室があるマンションを借りてはどうか』とか、『いっそ、郊外の一軒家を借りられないか』等と考え始めたのです。
その時、『では、その実現のためには、どれくらいの規模の事業にしなければならないのか』という《想像》が、自然にAさんの心の中にこみ上げて来ます。『ベテラン経営者は、こんな時《どうする》のだろう』と、Aさんは知りたくなるのです。

5.ありふれた手法が《輝いて見える》時

そこにある結論は、収支見通しや経営計画あるいは《投資と資金の収支計画》等、ありふれたものですが、Aさんには《どれもこれも新鮮に見える》のです。多くのベテラン経営者が見向きもしないものが、Aさんには魅力的だということです。なぜなのでしょう。
それは、Aさんには《やりたいこと》あるいは《自分ならうまくやれること》があり、それを実現する手段を探しているからです。もっとシンプルに言うなら、『利益目標を達成するためには何をどうすべきか』ではなく、『自分がしたいことを実現するには、どれほどの資金や売上や利益が必要か』と、行動(目標)から結果(事業規模や利益)を捉えるからです。
逆に、規模や利益の目標から行動計画を作るのでは『面白さや可能性をちっとも感じられない』のが今日的な状況かも知れません。

6.何かしたいのでなければ計算等は不要

つまり、目標が利益や売上の時には、《計画》や《先行き見通し》は、絵に描いた餅にしか見えなくても、自己実現(したいorできるの実現)のためなら、計画手法ばかりではなく、現状を把握するための業績計算も非常に貴重な手法になるということです。
Aさんは《これから》の人ですが、ベテラン経営者にも《同じこと》が言えそうなのです。たとえば『目先のことで精一杯。先行きを考える時間がない』というベテラン経営者(Bさん)がいます。しかし、そんなベテラン経営者のBさんが気付いていないことがあると捉えなければなりません。

7.したいことはないと言う経営者の本音

Bさんは『特別に何をしたいということはない』と言い切ります。確かに、これからエステティシャンになろうとは思わないでしょうが、『目先のことで精一杯』になっている自分は《何を求めているか》を考えるべきです。すると『ああ、私は今の事業を可能な限り続けたいのが本音なんだ』と気付くはずだからです。
漠然とした願望に気付くと、マネジメントに対する姿勢も変わります。《事業継続》のためには何をすべきかと、正面から考えるようになるからです。どんな実績信用技能を蓄積して行くべきなのでしょうか。そして、そんな蓄積努力のために、どれ程の収入や余剰資金が必要になるのでしょう。
少なくとも、まずは『どこまで《軍資金》を作り出せるのか』を知りたくなるはずです。その目線は既に、足元ではなく《先行き》に向いています。

8.紋切り型の《発想》を捨て去るべき時

いつの間にか、予算であれ計画であれ、『それは目標を立てて、その実現を図る道具だ』という常識が世の中に広められてしまっているかも知れません。そのため経営者は『目標なんてない』『そんなものを持つゆとりはない』『絵に描いた餅は不要』等と思い込み、計画経営をないがしろにするのでしょう。
会計事務所側でも、そんな経営者に計画経営を勧める意欲を持ちにくいのではないでしょうか。しかし、今の会社を売却したい、後継者に譲りたい、もっと影響力のある事業にしたい、地域社会に貢献したい等々、少しでも《したい》が見つかるなら、先行きを考えずにはいられないはずなのです。
先行きを考え始めると、そこにマネジメント手法(業績把握と計画経営手法)は不可欠になります。

9.問題にすべきは現状のレベルではない

しかも、その《したい》という意欲は、《①今の事業で出せる余力》《②余力が出ない時の改革》《③余力の範囲内でできること探し》《④その実現プラン》《⑤実現遂行度を測定する尺度》の順番で、どんどん《本来的な経営》に高められて行くはずなのです。
そのレベルは経営者の素質によって異なるでしょうが、その経営者なりに《高め》られて行くのは確実でしょう。そんな《流れ》を無視して、誰が広めたか分からない《計画経営=目標設定とその達成》という概念で臨み続けるなら、《会計計算が経営の上で有するパワー》が経営者に届かないのは当然かも知れません。

10.あまりにも増えた沈滞ムードの経営者

レベルがどうであれ、時には《乱暴》過ぎる計算であれ、《その経営者が実現したいこと》のために《①余力把握》《②余力創出》《③可能性探索》《④実行プラン》《⑤遂行度チェック》の計算法を、経営者がイメージできる範囲で活用し始めるという発想に立つなら、《その経営者の理解の範囲内の収支見通し作り》こそが、今経営者を勇気付けるための最大の武器になるのではないかと思えて来るはずなのです。
その武器が、こん棒でも刀でも、銃でも大砲でも、ドローンでも戦闘機でも、その経営者に《使える》ものであるなら、経営者の《戦う勇気》を奮い立たせるのに役立つでしょう。
私たちの周囲には、マネジメント手法が《餅を絵に描くことだ》と誤解したまま、《今後どうすればよいか分からずに沈み込んでしまっている経営者》が、あまりにも多いのではないでしょうか。