経営、特に中堅中小企業の《経営》とは、具体的には《何》をすることでしょうか。そして、会計事務所は、どのような形で、その経営に関与すべきなのでしょう。多くの企業が、激変とも言える状況に置かれる昨今、企業《経営》と会計事務所の《ポジションの再確認》が重要テーマになって来ました。

1.経営を難しく捉えると不明瞭化する傾向

経営は、3大資源つまり《ヒト》《モノ》《カネ》を適切に管理し、それぞれを総合的に発展させる営みだと言われることがあります。また《組織的な目的を達成するために、計画を立てて継続的に意思決定をして行くことだ》と言われるケースもあるようです。
ただ、それでは実業の中で活動する経営者に『ああ、なるほど』とは言わせることが難しいのも、現実ではないでしょうか。《経営理論》は、こう言ってよければ、学問的であり過ぎるのです。

2.経営を実践視点で捉えると見える3要素

では、現場で実践する経営者が納得できる形で《経営》を捉え直すなら、どんな風に表現できるのでしょうか。もちろん、その捉え方は様々でしょうが、身近な形で表現するなら、経営は《余裕》と《利益》と《可能性》を生み出す活動だと言えそうなのです。
次々に生じる緊急事態にも《振り回されない余裕》と、状況の変化の中でも着実に《利益を確保する眼力》と、時宜に応じて《新しい可能性を探し出すセンス》があれば、経営者としては《合格ライン》を超えているとも捉え得るからです。

3.経営の実践3要素はしばしば誤解される

ただ、この《余裕》と《利益》と《可能性》は、しばしば経営現場で誤解される傾向にあります。
たとえば、余裕作りのためには、目前の課題克服に全力を尽くすことが不可欠だと捉えている経営者は、案外多いからです。今もなお、経営者はしばしば『この山場(難局)を越えれば後は楽になる』という言い方をするでしょう。それは、目先に全力を尽くせば、その後に余裕が生まれると言うのと同じです。
ところが中堅中小企業の現実は、ほとんど常に難局にあるため、《楽になる時》は永遠に来ないのが普通でしょう。従業員の多くは既に、それに気付き、社長の叱咤激励に《うんざり》しているかも知れません。

4.むしろ計画センスは余裕を《生む》もの

それでも経営者は、たとえば『少し余裕が出来たら予算や経営計画作りを考えてみる』という姿勢をとります。ところが《余裕》など永遠にできないために、いつまでも計画的な活動に取り組めないのです。
そして、実は計画的な活動に取り組もうとしないから、余裕が生まれないことに気付きません。なぜなら、計画は《時間を効果的に使う手法》つまり《余裕創造》のための手法だからです。
経営感覚の矛盾は、《利益》面にもあらわれます。

5.出ると入るとのコントロールが利益の素

しばしば経営者は『利益を出すためには、もっと売上を拡大する必要がある』と考えます。もちろん、それは間違いではないでしょう。しかし、その考えが《がむしゃらに売上を上げる行為》に繋がってしまうなら、問題なしとは言えません。
がむしゃらな行為は、ほとんど常に大きな支出や投資の原因を作るからです。売上拡大のために、イベント等の販売促進を行ったり、商品改良に走ったり、人員増を試みたりするということです。
それでは、仮に一時的に利益を確保できたとしても、資金繰り(財務状態)は悪化して行き、長期的に《利益が出ない》事業体質を招きかねないのです。
元来《利益》は、《出ると入るを的確に管理する》ところに生まれるものです。

6.可能性は外のみならず内にも見つけ得る

更に《可能性》に関しては、多くの経営者が『可能性は外からやって来る』として、情報集めお手本探しに奔走することが少なくないでしょう。もちろん《外からの学び》は非常に重要なものではありますが、《自社は自社以外のものにはなれない》というのも事実でしょう。
そのため、外よりもまず《内に眠っている可能性》あるいは、意識してはいても《まだ手を付けていないテーマ》に目を向けることが重要になります。そしてそのためには最低限、《自社の業績実績》を、思い込みではなく、《数値》で客観的に捉え、自社の《強み》と《弱み》を明確に把握する習慣を身に付けなければならないのです。

7.経営根幹を会計事務所が握っている現実

以上のように捉えると、《余裕=計画性への意識》《利益=損益と資金収支の管理》《可能性=実績の客観的把握から始まるもの》であると捉えられます。つまり、何事も一気に解決しようとせず、計画的にコツコツと改善して行く意識、損益と資金収支のチェック、年次と月次の実績把握が、経営の根幹にあることが、容易に見て取れるのです。
そして、その根幹を指導あるいは支援し得るのが会計事務所だと経営者が気付くなら、会計事務所の存在に対する経営者の見方は、大いに変わって来ると言えるはずです。

8.経営者意識を暴走させない3つのテーマ

『経営者の意識が変わると、会計事務所への要望が増えて大変になるのではないか』と、心配されるかも知れません。しかし、経営者に投げ掛けているのは、《余裕=計画的な活動》《利益=費用対効果》《可能性=現状把握からのスタート》ですので、無理難題を押し付けられるテーマではないのです。
それでも、もし『悠長に構えている時間はない』という状況に追い込まれている企業があるなら、そこに新たな経営手法を導入させるよりは、商品の取捨選択や事業の縮小によって、事業の沈下を止めるところから取り組みを始めるべきでしょう。《余裕=ゆとり》を持たずに走り出すと、一見成功した時でも、副作用を招く要因を背負い込まないとは限らないからです。

9.企業と会計事務所との関係を見直す好機

いずれにしましても、経営とは《余裕創造》《利益確保》《可能性探し》の実践にあると経営者が理解するなら、その瞬間に《企業にとっての会計事務所の現実的な存在感》は大きく変わり得るということです。
たとえ、決算業務しか提供しない関与先にも、その決算業務の《重み》を認識させ得るのです。
そんな視点から、今後の企業と会計事務所の《関係》の在り方を再確認し、経営者の《意識》に働きかけるべき時が来ていると言えそうなのです。
それは世の中が、公的な制度変更とコロナ禍から、やや落ち着いて来たからでもあります。

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