先生方から提言や提案をされた時も、相談を持ち掛けられた際でも、何を助言しても、ただひたすら《迷い》続ける人がいます。迷うどころか、どんどん《頭が混乱》して行くかのような人もいるでしょう。
そんな人の《迷い》や《悩み》に、どう《対処》し、どのように《整理》を促せばよいのでしょうか。あるいは、そもそも頭の《整理》のお手伝い等ができるのでしょうか。ご一緒に考えてみましょう。
目次
1.言葉への過剰反応が迷いの素になる
たとえば《人員不足》や《資金不足》あるいは《売上減少》や《経費増大》等の言葉が、経営者(Aさん)に認知されると、Aさんは当然の結果として危機感を抱きます。危機感自体は《その後の対策》を準備させる建設的なもので、必ずしもマイナスには働きません。
しかし《度が過ぎる》と危機感はそのまま《不安感》となり、その結果《冷静な判断力》が失われて、何も考えられなくなり、何をするにも《迷い》が生じやすくなるのです。一旦、そんな状態に陥ったら、何を提言・提案しても、Aさんが《どうしたものか》という迷いから抜け出せなくなっても不思議はありません。
2.迷いには《どのように》陥るのか?
では、そもそも《迷い》とは《どのようなもの》なのでしょうか。学問的には、様々な《説》があり得るのでしょうが、コンサルティングの現場経験から申し上げると、『迷いは《頭(思考)と心(感情)の葛藤の結果》生じるものだ』と言いたくなります。
Aさんは多分、プラスの減少やマイナスの増大があっても、《対応法があるはずだ》と頭では、それなりに把握しているのでしょう。もちろん《どんなレベルでそう思っているか》はケースバイケースですが、Aさんの頭は『頑張ってみようよ!』という気分になっているのです。
3.そもそも感情の方が頭よりも強い?
ところが、そこへ『どう頑張れるんだ?』『何ができる?』、更には『ほらほら、何も思いつかないじゃないか』という類の《不安の声》が感情を揺さぶり始めます。もしかしたら『何をしても《時流》には勝てないし、自社には優秀な社員もいない』という不平や絶望感まで発生してしまうかも知れません。
頭自体は、私たちが思い描くほどには複雑でもなさそうです。難しいことを考える時の頭でさえ、案外シンプルかも知れません。思い切ってシンプル化しなければ、理論化や抽象化は難しいからでしょう。
ところが、感情はどんな人であれ、非常に《複雑》で《多様》なのです。シンプルに心を掌握できません。
4.感情を暴走させる不安の正体に注目
もちろん個人差はあるでしょうが、まずは、この《頭と心の葛藤の現実》を知っておく必要があります。そして、感情を巻き込む不安が《どのように発生するか》に注目するのです。そうすると、不安の中で《次の一歩》に迷って、何事にもなかなか踏み出せない人の《背中》が見えて来ます。
では《不安》は、どのように発生するのでしょうか。それを一口に捉えるなら、《頭が対象の正体を捉え切れない》時に生まれ、何をすれば不安が消えるかが分からないケースで《拡大》して行くものでしょう。
正体不明の幽霊を感じると、私たちが《襲われる》という不安からパニックに陥る時と同じです。
5.頭を元気付けながら感情に寄り添う
《頭がお手上げ》状態下で、感情が暴走するために、何もかも否定的に見えて《迷い》や《悩み》に沈み込むのだとしたら、『迷っている人、悩んでいる人に理屈で対するのはムダ、あるいは逆効果』という《法則》が成り立ちそうです。
その結果、提案者や相談受付者あるいはコンサルタントは、相手の感情の暴走を《頭》が、ある程度でもコントロールできるように、《相手の頭を元気付けながら感情に寄り添う》姿勢が求められるのです。その最良の方法が、問題や不安に共感を示しながらも《問題の客観化》つまり《数値化》に取り組むことです。
6.問題の数値化で頭は感情に勝り得る
感情を暴走させたのは、《資金不足》や《経費拡大》等の《程度が定かではない》言葉上での表現あるいは認識でした。そこで、これを『どの程度の資金不足なのか』『どれだけ経費が拡大するのか』という数値表現に置き換えてみます。問題を《程度》で把握しようとするわけです。
すると《頭》は『この程度なら何とかなる』とか『ここまで来たら外部に助けを求めざるを得ない』等と《判断》ができるようになって来ます。《頭》が感情から自由になって、機能し始めるということです。
数値で捉えるということは《頭に援軍を送る》ようなものなのだと思います。
つまり《問題を極力数値化する》のが、相手の背中を押すための《第1の姿勢》になるのです。
7.前提条件を疑う前に対策を想定する
《第2の姿勢》は《疑う前に仮想せよ》という原則に従うことです。どんなに精緻に見通し数値を作っても、それは想定あるいは仮説に過ぎません。疑えばどこまででも疑えます。そして疑い続ければ、その間に感情はどんどんネガティブに、かつ強くなってしまいます。
そこで、1つでも見通し数値が出たら、疑う前に『この前提でなら何がどうできるか』と、対策を《仮想》してみることが大事になるのです。1つの仮想だけでは安心できないなら、別の仮想計算をして、改めて『何ができるか』と考えてみます。
8.予測の程度によらず対策は大同小異
すると、徐々に『想定数値が多少違っても、すべきことは同じ(類似)ではないか』と思えて来ます。これは一見不思議で不可解なことかも知れません。しかし、実際論として『程度差はあってもすべきことは同じだ』と言えるケースは本当に多いでしょう。たとえば、資金が不足するなら、借入を増やすか資金支出時期をシフトするしかないからです。
もちろん、可能なら売上増による資金増殖も選択肢に入るかも知れませんが、売上拡大の際には販促費等が先行して必要になるケースが出てしまうはずです。リスクは、それだけ大きくなるわけです。その際でも、シミュレーションをしたくなって来るとしたら、頭が元気になって来た証拠です。
9.数値で考え始めることの現実的効果
《第3の姿勢》は、対策も数値化することです。たとえば経費削減なら、削減目標を掲げて現場に検討させる前に、経営者自身が《削減の目安とその可能性》を具体的に探ってみることが大事になるということです。売上拡大策でも同様です。経営者に考え付けないことは、現場に思い付けるはずがありません。
もちろん、対策も数値化したら万事がうまく行くわけではないかも知れません。しかし、数値で考え始めると、徐々にではあっても、《頭》が《感情》に『ちょっと静かにしていてくれないか』と言えるようになっているはずなのです。迷いを完全には払拭できなくても《具体的な選択肢》を探せる状態になっているということです。
10.頭が感情に力強い宣言を発する時!
以上をまとめますと、迷いや悩みに沈む人の背中を押そうとする時には、《基礎:迷いは頭と心の葛藤》であると捉えて、理屈で頭に訴えるより、感情に寄り添う道を選ぶことが肝要になるということです。
そして《第1姿勢:問題を数値化》して、不安感情や諦め感の暴走を抑えながら、《第2姿勢:数値を疑う前に対策を仮想する》に努め、最終的には《第3姿勢:対策も極力数値化》して行きます。
すると、そこに必然的に『こんな時はこうする』という形の選択肢が生まれ、その選択肢によって判断(頭の活動)がしやすくなるのです。その時、頭は『迷っている場合ではない。邪魔するな』と感情に対して宣言できるでしょう。
11.補足:中堅中小企業の経営管理の道
これは補足ですが、収支見通しであれ予算であれ、経営計画や事業承継計画であれ、相続税対策や投資回収計画であれ、過度に《予測を当てよう》としないことが肝要です。天気予報も、歴史的に大金と大量の労力を掛けながら、いまだに、こう言ってよければ、当たらないでしょう。
しかし、雪の時は何が起きる、夏の暑さはどんな影響を与える、台風は地震は…、という具体的な現象と有効な対策の蓄積効果は大きいし、その蓄積は非常に役立つのではないでしょうか。
大事なことは《先行きを数値で当てる》ことではなく、《仮説を置いて対策の選択肢を作る》という経験の蓄積ではないかと思います。そして、そうした姿勢を起点として、計画経営を捉え直すなら、中堅中小企業にも、教科書的ではない《自社なりの経営管理》の道が開け始めるのではないかと考えられるのです。