会計事務所の業務は、企業経営の根幹を成すとされながらも、ことさらに経営(マネジメント)に立ち入らなくても普通に成立するものかも知れません。
しかし、関与先の収支改善や資金繰り管理あるいは計画経営や事業承継等の経営課題に向かう際には、何よりもまず《意識しておくべきこと》がありそうなのです。

1.そもそもマネージとはどうすることか

そもそも《マネージ:manage》という英語は、日常的な日本語では『どうにかこうにかやり抜く(何とか成し遂げる)』というニュアンスで訳されることが少なくありません。
たとえば、取引先が倒産して、自社の売上が大幅に落ちた時、それでも『どうにかこうにか乗り切る』のが、マネジメントの姿だということです。
そして、そうだとすれば、その《マネジメント》上には《2つの道》があると言えるのです。

2.マネジメント上の《2つの道》とは?

《何とか成し遂げること》という意味での《マネジメント》の2つの道とは、シンプルに捉えるなら『考えて成し遂げる』『頑張って成し遂げる』という2つの行為あるいは姿勢を指し得るのです。少しスマートに言うと、《戦略設計》《実践遂行》のそれぞれに、《マネジメント》のニュアンスがあるということです。
そして、大きな企業体では見事に《戦略を考える中枢》と《効果的な遂行に励む部門(現場)》に、組織的な仕組みが分けられています。組織的な分担が明確であるために、中枢は考える(判断する)こと、現場はやり遂げる方法を探すことが《マネジメント》だと、それぞれが信じて疑わないケースが多いようです。

3.経営論が事業現場に通用しにくい理由

《考える中枢》には、まだ見ぬ先行きを想定する際には特に、経営理論のバックアップが重要になるのは当然でしょう。そのため、この分野には様々なノウハウや思考法が《経営学》として発展します。それらが蓄積すると、マネジメントとは判断という《思考行為》であるという定義感覚が定着して行きます。
しかし、それだけでは《マネジメント》にはなりません。《考えた》だけで実現するのは魔法ぐらいのものだからです。マネジメント理論の中には《魔導書》のようなものが少なくないようではありますが…。

4.事業現場は理論より直感と意欲で動く

一方で、頑張るという《実働行為》は頑張る方向性を間違うと、とんでもないことになります。東京から大阪を目指して、頑張って頑張って頑張って走り続けたのに、着いてみれば仙台だったというのでは、話にならないからです。
そうならないよう《現場が方向性を見失わないようにする》ために、中枢のための戦略的な経営論に加えて、中枢が現場を導くための経営管理論(計画経営論)が登場します。ところが面白いことに、その現場自体が《うまく行動するための理論》は、必ずしも普及しているとは言えないのです。
理論が生まれにくいのは、現場の実践が、人の《直感》と《意欲》に負う部分が多い世界だからでしょう。

5.抽象的経営論は中小企業に役立たない

経営者自身の直感と意欲で成果を出す中堅中小企業の経営者が、戦略的な経営論にも経営管理輪にも、見向きさえしないのは、経営者自身が《現場的な実践の人》であるからに他ならないと思います。
ところが、この《中堅中小企業は経営者の直感と意欲で成り立っている》という当然過ぎることが、経営論の中では《つい》忘れられがちになります。なぜなら、理論は《具体的な木村さんや角川さん》を意識して作られるものではなく、《抽象的なモデルを主人公として形成される》からでしょう。経営者がどんな組織をどのように率いているか(という具体性)は、経営論が意識する範疇ではないのです。
AIも抽象化の中にあり、決して《若宮さんや橋本さん》を前提にしているわけではありません。

6.中堅中小企業の先行きが暗いとしたら

もちろん、もし今後も中堅中小企業の事業が、経営者の直感と意欲で成立できると捉えるなら、この先も中堅中小企業には戦略論も管理論も不要でしょう。しかし今、《五里霧中》の中で迷いつつ悩んでいる経営者が急速に増えているのではないでしょうか。以前のように誰かが開いた道(産業の隙間等)を、ひたすら頑張って進む発想だけでは、待っているのは《息切れ》だけなのかも知れないからです。
ところが、直感や意欲を補完するはずの経営論は、中枢と現場を分けた大組織用の仕様であり、何の助けにもなりそうにありません。今日の中堅中小企業界の《暗さ》が、ここにあるとは言えないでしょうか。

7.直感と意欲だけでは既に事業は難しい

では、どうするか。その答は非常にシンプルで、中堅中小企業の経営者は、今《限界に達した直感と意欲のパワー》を超えるために《自らに適した理論(手法)を獲得》しなければならない』ということです。これは『市販されていない経営論や管理論を自己創造する』というテーマになります。
ただし、そんなに難しいことでもないはずです。なぜなら、今日の高度な経営論や管理論も、日常的に蓄積されたデータ分析から生じたものに過ぎないからです。そして経営論を作る難しさは、可能な限り多くの企業で活用できるようにするために、非常に多くのデータ分析が必要だったからかも知れないのです。
逆に、自社の《データ》だけを見て、そこに経営者が直感と意欲で《納得できる答を探す》なら、市販され得るような経営論創造の100分の1あるいは1,000分の1程度の努力で済むかも知れません。

8.業績データは分析するより感じさせる

今日、経営者が自社の業績データや関連データを改めて《見る》意味がここにあります。単にデータを見て、その分析を一般的な経営論に当てはめるのではなく、《自社データを自分の感性で捉え》ながら、直感と意欲で新しい可能性を探すという意味での《創造行為》に取り組まなければならないということです。
その際、他者のために料理を創るのは大変でも、自分のための料理なら『存分に試せるではないか』という意識になるなら、その《創造行為》も決して難しいものにはならないはずなのです。
良くも悪くも、中堅中小企業では経営者の《感性》以上の事業はできないと割り切るなら、無理する必要がなくなりますし、その点で、会計事務所の指導法もかなり割り切ったものになり得るとも思えて来ます。

9.決算データの重要性を簡潔に語る意味

自社の業績データに対しての《感性》を目覚めさせるだけで、『あっ、そうか』と気付く経営者もいるでしょうが、直ぐには理解しない経営者には『理解できない部分を理解できるように学びたい』と思わせる《動機付け》から始めることが肝要になります。
極端に言うなら、会計事務所が『淡々と決算データが表すものを語って行く』だけでも、中堅中小企業にとっては《歴史的》とも言える《経営の実質勉強》が始まり得るということです。その時、会計事務所支援の《次の一歩》は、計画経営や事業承継、収支見通しや資金管理等、非常にオーソドックスなものになるでしょう。経営者の直感と意欲そのものの形成には深入りする必要はないからです。

10.重要なのは決算数値と経営の接点形成

次の一歩はさておいた時でも、経営者に決算の意味や価値を知らしめるために、《決算数値》と《経営者の頑張り》の関係を、会計事務所と経営者が《考える》時間を持つことは、非常に重要になると思います。それは『何がどうだったから、こういう状況を経て、こんな結果が出た』という分析あるいは推測です。
それも《勉強会》という重いものではなく、年度決算や月次試算表提示等の《折に触れて》語り合う対話が、重要な役割を果たすかも知れません。
そのために、まずは経営者の意識に語り掛ける《道具》が必要になるのです。それは、たとえば《決算期に語るべき15分経営研修》のようなものです。当サイトでは、現在のところこの種の《短時間研修》は1つしか用意していませんが、これをベースに、多様な独自の《語り》を作り上げていただきたいと思いますし、作り上げて行こうと考えています。

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