会計事務所が、たとえ《同様の支援》をしていても、それを受ける経営者サイドの受け止め方次第では、感謝の度合いが180度変わることがあり得ると言われます。たとえば、経営者に“問題の難易度”が分からないような時には、迅速な対応にでさえ、“時間がかかり過ぎる”と文句を言われることもあるわけです。
なぜ、そんなことになってしまうのでしょうか。そして、 会計事務所支援が《感謝》されるとともに、必要な場合は《有料化》を容易にするためには、いったい何が必要なのでしょうか。 今回は、そんな微妙なテーマに注目したいと思います。

1.所要時間に比例する“作業”への感謝度

“たった1分”でできる《作業》には、私たちは、あまり深い感謝できないかも知れません。たとえば、『そこのホッチキス取って!』と頼んで、それを取って来てもらった時、確かに助かりますが、それが“重要なサポート”だとは思えないからです。場合によっては“ありがとう”とさえ言わないこともあるでしょう。
しかし、ホッチキスの針がなくなって、往復30分かかる店に買いに行ってもらう時は、その感謝度は格段に深くなります。もちろん、依頼された人の《手間》の度合いが比較にならないからです。
更に1日がかりや、1週間がかりの作業では、依頼者の“感謝”が深くなるばかりではなく、それ相応の《有料化》は当たり前になるはずなのです。どうやら《作業》に対する感謝度は、《量(所要時間)》に比例すると言えそうです。

2.短時間の診察でも“高い評価”を受ける医者

その一方で、例えば“医者”はどうでしょうか。たとえば内科の診察で、ああでもないこうでもないと診察を続け、ようやく30分後に『風邪ですね』と指摘する先生と、瞬く間に『風邪だ』と言い当てる先生の、どちらをより深く信用するでしょうか。
“風邪”程度ではなく、もっと複雑な病気の懸念を、1分間で言い当てられ、更に大きな病院で“精密検査”を勧められるような場合ならどうでしょう。その時、『先生の診断は、たった1分じゃないか。私は30分かけてくれた先生を高く評価する』と言う人は少ないはずです。
提供するものが《作業》か《見識》かで、受け手の《評価ポイント》は180度違うのです。作業は“時間を掛ける”ことで評価しますが、《見識》に“時間がかかる”と、逆に“素人”だと思われかねないからです。

3.“机上”では当たり前のことが“実践”では難しい!

この《評価ポイントの違い》は、頭(机上)で考える時には“当たり前”のことかも知れません。ところが、会計事務所のように、見識提供をビジネスとしながらも、自力で“料金を設定”しなければならない場合は、“難題”に化けてしまいやすいのです。
特に、見識ビジネスに携わる先生サイドが、ご自身のサービスに《値付け》をする時、《手間がかかるかどうか》で自己評価してしまう時、その“難題度”は更に大きくなってしまうでしょう。
それは、たとえば“たった1分”で答えた行為に、数万円は取れないと考えてしまうだけではなく、高い料金設定をしたら、あたかも作業者のように、“長時間汗をかく”のでなければ、料金に見合うサービスをしたことにならないと、こう言ってよければ、心の底で感じ取ってしまう時のことです。

4.士業ビジネス活性化に求められる《2つの考え方》の導入

そんな背景があるためか、先生方の中には、『お金(料金)の話をする時が、一番ストレスを感じる』と言われる方が少なくないようです。料金設定が安過ぎると実施の意欲が湧かない一方で、高過ぎると“多大な労力”が求められそうだからです。
では、なぜ“医者”は平然と、短い診察で高い診察料を取るのでしょうか。その背景には確かに、健康保険制度があり、診療行為の一つ一つが、保険点数によって“定価”化されているという事情もあるかも知れません。しかし重要なことは、医者自身が自分を《労務提供者》だとは捉えていないからでしょう。
だから『何でもないですよ』という診断の時でも、料金を請求するのに迷いがないのでしょう。おカネの話が、迷いのない“当たり前”のことなら、それを重荷に感じる必要もありません。
さて、会計事務所が“医者と同じようになる”のは難しいでしょうか。そんな“状況”は、すぐに実現できるものではないでしょうが、《2つの考え方》を確立すれば、実現は時間の問題になるとも言えそうなのです。

5.《第1の考え方》は“脱”労務提供発想

その《2つの考え方》の第1は、先生ご自身が“視点を変える”ことに他なりません。
少なくとも、この20年間で、士業界にも、ずいぶん変化が押し寄せて来たはずです。しかし、まだまだ“会計事務所のサービスは知的ではあっても労務の提供だ”という感覚が、抜け切れていない面が残ってるのではないでしょうか。
会計事務所の先生は、今もなお“実際の作業をする度合いに合わせて料金を設定する”傾向があるということです。あるいは“特段作業をしないのに料金を得る”ことに、ある種の抵抗感を持っておられるケースが多いということかも知れません。
ずいぶん前になりますが、『会計事務所のサービスは労務提供型に傾き過ぎていないか』とご指摘した時、ある先生に『今まで、労務提供かどうかなど“考えもしなかった”』と言われました。しかし、これからは“考える”必要があると思います。付加価値競争で無料業務が増えてしまい、士業のビジネス効率が落ちてしまっているからです。

6.不足しがちな《第2の考え方》

しかし、実際は《2つの考え方》の第2の側面が不足していたため、会計事務所がなかなか“労務提供型”発想を抜けきれなかったとも言えそうなのです。
その《第2の考え方》とは、端的に言うなら、会計事務所の業務は、それ自体が《経営指導》あるいは《マネジメント支援》そのものだという基本的な発想です。決算業務を遂行する時も、それは決算作業の提供ではなく《マネジメント支援》だという“意識”が、不足しているのではないかということなのです。
《経営》は経営者にとっても、医者の診察行為と同様、時間を掛けたかどうかより、《結果の適正》が問われるものです。そこは問題に直面した時、『私は検討に3日掛けた。偉いでしょう!』とは、口が裂けても言えない世界なのです。逆に《問題を瞬時に解く》人が、当たり前に尊敬されます。そのため《経営指導者》は、提供労務によって“評価”される度合いが、非常に小さくなるのです。
ただし、この《第2の考え方》には、重要な“現実”が隠されています。

7.内科医ビジネスから学べることがあるとすれば…

たとえば、先の内科医の例で、“この咳にはマイコプラズマ肺炎の疑いがある”と、見識によって即時に《診断》した場合でも、その後“精密検査”という《作業》を提供しなければなりません。そして精密検査は普通、使用する機器の償却費も含め、案外“量的”に価格が決まるものです。その意味で、自院が行うとしても、大病院に任せても、その内容は《作業》的なものでしょう。
しかし、その診断を受けて《作業》の提供を受ける患者は、《診断》にも《作業》にも価格への不満を示さないことが多いのではないでしょうか。むしろ感謝するはずなのです。実際《医者の世界》から学ぶべきものがあるとすれば、この《診断》と《オファー(提案)》の組み合わせだと言えるかも知れません。
つまり《見識提供》をベースに置いて、《作業提供》が必要な時は、別途《見積もり》の上で《提案する》というスタイルが、会計事務所にも必要だということです。

8.見識提供と作業提供の“峻別”が士業ビジネスの事業性を変える?

そして何より、会計事務所の先生方ご自身が、経営支援という《見識提供》と、決算や資金収支見通し、あるいは予実管理や経営計画設計支援等の《業務提供》を、でき得る限りの徹底姿勢を持って《峻別》することが重要だと思います。
“問題を指摘し、作業提供の必要性が出たら、その都度費用を見積もって提示して、支払いの確約が得られなければ作業には入りません”というスタンスが重要だということです。もちろん、定額化している決算業務にも、今後は“本来なら作業量次第で変わるものですよ”という合理的感覚が必要になるかも知れません。
しかし実際問題として『経営支援は難しいし面倒ではないか』と感じられるなら、もしかしたら《経営支援》そのものへの“誤解”があるとも考えられます。それは、経営課題で、“面倒なこと(作業)を強いられる”という誤解であり得るのです。

9.そもそも《経営支援》とは何をすることなのか?

経営支援とは、一口に言うなら、《経営者の判断》に働きかけることに他なりません。経営者の判断に働きかけるということは、つまり《妥当な選択肢を示す》ことなのです。もちろん、選択肢を探したり提示したりするために、膨大な作業が必要になるケースもありますが、キーは作業量ではなく《選択肢の質》自体でしょう。
しかも、この《選択肢発見》の世界は、いわば“岡目八目”とも言え、事業に客観的になれる立場からは、案外容易なものだとも言えるのです。だからこそ《経営支援》は《事業》になり得るわけです。
いずれにしても、正解は経営者が出すもので、経営支援者の責任ではありません。しかし、経営者が検討すべきことを全て検討したかどうか、そもそも《別の選択肢》の可能性を考えたかどうかは、経営支援者が責任を持ってチェックすべきものです。
そして実は、多くの経営者にとって《選択肢を提供してくれる存在》が一番“ありがたい”と言えるのです。

10.ある種の閉塞感からの“出口”になり得る!

そんな“明確なスタンス”をとるなら、『会計事務所は経営の支援者だ』と主張しやすくなるのではないでしょうか。そして、そんな主張が、労力の《量》ではなく、見識の《質》で勝負できる環境を形成すると同時に、《量》が求められる時は、その都度“見積もり”をして《有料提案》を行いやすくする《関係》をも形成してくれるとしたら、会計事務所の“競争力”は、新しい次元に移行するとも言えるはずです。
経営者は、今も昔も“判断のサポーター”を求めています。そんな経営マインドにアプローチし、経営者のハートをつかむとともに、“脱労力提供”の発想から経営陣にアプローチすることが、昨今の“ある種の閉塞感”からの、一つの“出口”になり得るのかも知れません。

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