《経営支援》と言うと、事業を健全に導くとか、もっと具体的には売上や資金繰りの水準を向上させるという類の事業指導イメージを抱きがちです。しかし最も重要で最も緊急な《経営支援》は、目前の経営者が持つ《能力》を、そのレベルがどうであれ《最大限に引き出す》ことでしょう。
会計事務所の業務には、その支援を簡潔な方法で可能にする要素が《強い》と申し上げられるのです。

1.すべきことを実行するのが経営だが…

中堅中小企業の経営はグローバル企業とは違い、『自社がすべきことを着実に行う』ことで成立するとも言われます。そのため、多くの経営者は《高度な経営論》よりも《目先の実務》に意識を集中させるのです。
それはもちろん、規模の小さい《ニッチ》ビジネスとしての《必然》で、健全な発想ではあるのですが、しばしば《1つの要素》が抜け落ちてしまうために、多くの中堅中小企業では、『経営していると言うより、日々状況変化に振り回されているだけ』になってしまうケースも、少ないとは言えないのです。

2.《振り回される》とはどんな状況か?

《振り回される》とは、もちろん《適切に対応する》ことではありません。たとえば、期の途中で資金ショートの恐れが出た時、経営者は慌てて金策に走りがちになります。急いで走らない(走れない)場合でも、融資をしてくれそうな先の想定が、頭の中でグルグル回っているでしょう。
一方で、資金ショートの恐れが出ても、落ち着いている経営者がいます。同じように《金策》を検討しても、先の経営者のように《自分のペース》を失うことがないのです。そしてその差を生み出すものが、前述の《1つの要素》なのです。

3.抜け落ちがちな《1つの要素》とは?

その《1つの要素》とは、言葉で表現するなら《程度》あるいは《時と程度の問題》です。資金がショートするとしても、それは《どのタイミング》《どの程度のもの》なのでしょうか。
そんな《時間的程度=タイミング》《量的程度》が、たとえ大まかにでも把握できれば、《対処の程度=目標》も具体化されやすくなります。そして、私たちは《目標》あるいは《目安》が定まれば、案外落ち着いた取り組みができるもののようなのです。一歩ずつ計画的に行動できるようになるからでしょう。
逆に《程度不明》な状況に置かれると《際限なく不安を感じてしまう》ため、私たちは《振り回されやすくなる》わけです。不安ほど《人を惑わす》ものはないでしょう。

4.不安に陥った時におかしがちな大失敗

不安に振り回され始めると、しばしば《やり過ぎ》てしまいます。資金確保のために、貴重な主力商品を破格値で販売あるいは取引をしたり、あちこちに借金や融資を打診し、結果として自社が火の車であることを公言して回ったり、従業員に対してヒステリックになって組織の士気を下げたりしてしまうのです。
そんな状況下では、先行きのための種まき投資開拓的な営業にも取り組めません。そしてその繰り返しが、企業をどんどん貧しくして行くのは、申し上げるまでもないでしょう。

5.事業状況の程度を測る貴重なモノサシ

そんな、事業の状況を《程度》として把握するためにこそ《年度決算》があるのですが、決算だけでは《程度把握=活動の目安》は作れません。決算は《結果》に過ぎないからです。
ところが、どんな形にせよ『じゃあ、次の期(翌期)を想定してみよう』と捉えるだけで、《程度把握》は具体化し始めます。ただしその想定は、単に予算や見通しを作るというのではなく、『この程度の範囲に事業活動が収まるなら来期は大丈夫』と、経営者自身を納得させるものでなければなりません。
そんな経営者納得のための最短の道は、《経営者自身が自ら数値を置く》あるいは《経営者が置かれた数値の意味を現実に照らして理解する》ことでしょう。

6.できたできないの評価意識からの離脱

ただ月次予算と月次実績を、『できた、できなかった』という評価視点だけで捉えると、その経営は、年に12回(12ヵ月)も振り回されるだけで終わるかも知れません。通常、そんなストレスに耐えられるケースは稀ですから、その経営者は《予算を期中に捨てる=無視する》ことになるはずです。
しかし、単に月次予算と月次実績を比較するのではなく『今月までの実績を踏まえて、年度(または半期)予算の水準を実現するには、残された期間で《どこまで》やればよいのだろう』と、年度最終レベルの《程度》視点で捉え直し始めると、振り回されない分だけ《考える》時間が生まれやすくなります。

7.企業経営者が目先に振り回される理由

もちろん『残された期間では(年度業績を)如何ともしがたい』ような時でも、その《成り行き結果》を数値で見ると、対応可能性を探しやすくなります。実際に、目標を下げても問題ないケースもあるでしょうし、商品政策や取引条件あるいは、人員政策や賃金政策、コストダウンや販売促進等、《考えるべき課題が具体的》になっているはずだからです。実行が来期になった時でも、成果は期待できるでしょう。
中堅中小企業の経営者が、目先のことに振り回されて《事業の実》を失いやすいのは、ひとえに《決算への理解》とその理解の延長上での《先行きの程度見通し作り》を怠ったまま、目先の課題に取り組んでしまうからだと申し上げたいわけです。

8.経営者が考える時間を確保する重要性

そもそも目先の変化に対して、常に適切に対応できる人は皆無でしょう。どんな知恵者でも、『何をどこまですべきか』あるいは『何をどこまで実現すれば大丈夫か』という《程度目安》を無視すれば、状況に振り回されて、考える時間も持てなくなるのが、自然の成り行きだと思います。
そのため、①決算を通じて事業の問題点や可能性を具体的に把握することと、②今後何をどこまで実践するかの目安(目標)を持つこと、そして③毎月の実績を一里塚として、必要に応じて目安や目標を調整し続けることの3点が、経営者に《考える余裕》をもたらすための重要施策だと言えるのです。

9.何のために《考える》と効果的なのか

『考える時間があっても、能力がなければ無駄ではないか』と言いたくなりますが、能力が《ない》経営者はいないはずです。ただ『何をどこまですべきかという程度が分からない』ために《自分なりの能力》を発揮できないまま、うろたえてしまうのだと思います。
そのため、会計事務所が《形やマニュアル的手法》にこだわらず、関与先の経営者の技量に似合う《①決算把握》《②経営者が納得できる翌期見通し》《③毎月の一里塚的修正助言》によって経営サポートを行うなら、『今よりももっとうまく事業を経営できるようになる』経営者は、決して少なくないと思います。
つまり上記①②③の3点だけで、会計事務所は経営の重要な支援者になれるということです。

補.経営支援を無料で行ってはいけない!

ただ、企業にメリットをもたらす経営の支援者になるのですから、先生方も《メリット》を獲得する、つまり《経営支援業務を有料化》することが必要だと思います。無料奉仕は、それ自体が悪いとは言えないでしょうが、それでは長期的な継続が難しくなるため、一時しのぎに陥りやすいという意味で弊害が伴うと申し上げたいと思います。
そして何より、業務の有料化のためには《提案書》が不可欠だと、ご指摘申し上げます。

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