事業の決算に際しては、税負担の適正化(必要以上の税負担回避)の指導は欠かせません。そして、そのために《適正会計》の指導も重要になるでしょう。
しかし、経営自体の指導に一歩踏み出すことも、ある一点を見失わないなら、そんなに大げさなことではなさそうなのです。

1.はたして経営指導は本当に高度なものか?

経営コンサルティングや経営指導という言葉を耳にすると、何か高度な気がして来ます。そして、そこには体系化された見識や深い経営経験が求められているように感じるかも知れません。しかし、それは経営指導者側の感覚であり、決して経営実践者のものではないのです。
では、経営の実践者たる経営者は、いったい何を求めているのでしょうか。経営者の求めを、アンケートのような形で集約すると、その内容は多様に見えてしまいがちですが、実は《1つ》だとも言えるのです。

2.経営者が求める《たった1つ》のことは…

その《1つ》とは、《改善可能な部分の発見》と《その改善法の示唆》に他なりません。『発見と示唆なら2つではないか』と言いたくなりますが、それは2つで1つのセットです。
もちろん『問題を発見しても、解決策がなければ意味がない』からではありません。解決や改善がイメージできないものは、そもそも問題ですらあり得ないからです。
しばしば、『この経営者は重要な課題の存在に気付いていない』と感じることがあります。しかし実際は、気付いていないのではなく、解決方向が見出せないため《蓋をしている》だけかも知れません。

3.可能性が見込めないものは問題ですらない

それなのに、仔細も知らず『ここが問題だ』と指導するなら、経営者はむしろ『この先生は、事業も経営も素人だ』と感じてしまうでしょう。できないことを求めるのは絵空事だからで、現実を知らない素人にしかできないことだからです。
そのため《改善可能性が見込めないものは問題にさえならない》という根本原則が、経営上の指導では、特に重要になるわけです。

4.一歩踏み込む経営指導に取り組めない理由

その根本原則を《裏》から捉えると、指導する側に《改善可能性がイメージできるポイント》が見つからない時には、経営指導は不可能だということです。マネジメントの論理や手法を勉強しても、コンサルティングノウハウを仕入れても、不可能が可能になることはありません。
しかし、もしそうなら『難しく考えず、見つかった可能性で勝負すれば良いではないか』と思えて来るのではないでしょうか。たとえば、資金繰りに難があると感じれば、『経費管理を厳しくしましょう』という助言やその後の指導ができるということです。

5.経営者は《実践的助言者》を下には見ない

『そんな些細な指摘では、経営者から低く見られないか』という声が聞こえることもありますが、たとえ些細なことでも、改善策を《イメージできている》なら、決して《下》にいるわけではありません。もし、どうしても『自分はこの程度ではない』と主張する必要があっても、『経費管理を厳しくするところから、一歩ずつ進めて行きましょう』という言い方に変えれば良いはずです。
重要なのは、改善策があることであり、それを経営者にイメージさせることなのです。

6.小さな問題への丁寧な対処が何よりも大事

経営課題への取り組みは、雑然とした部屋を片付けるのと似ていて、1つの障害物を除くと、少し根の深い問題が見え始めるモノです。たとえば経費管理を厳しくする過程で、その会社では《数値管理が正確ではない》ことに気付くかも知れないと言うことです。
数値をタイミング良く精査できていないため、資金収支上の問題が見えず、後で気付いて融資獲得に走っても、返済計画が作れないため金融機関に相手にもしてもらえない、という状況が見え始めるわけです。
逆に、一番上の障害物をそのままにして、その下の問題を解決しようとすると、その《部屋》は、ますます雑然として行くばかりでしょう。
そのため、有能なコンサルタントほど《易しい指摘》から入ると言われるのかも知れません。

7.決算上の数値から改善可能部分を見つける

そんな観点で捉えると、たとえば年度決算や月次の試算表の検討に際し、企業経営にどんな助言や指導をすべきかを考えるなら、まず先生が、『ここは、もしかしたらこう改善できるのではないか』と感じるところを探す必要があると言えるのです。
前年対比や同業種との比較は、そのための参考にはなっても、改善可能性が見つからないなら、何も言わない方が良いかも知れません。しかし無言に留まるのも、面白くはありません。

8.改善可能部分が見つからない時の対話視点

そこで、問題の匂いがするもの、たとえば主力商品の原価率の変動が激しい状況が見て取れたような場合には、原価管理をどうしているかを聞き出したり調査したりするところから始めてみます。問題でも改善可能性でもなく、その前段階の《現場の実際》に着眼するわけです。
すると、原材料の購買が月末や期末に集中しており、その在庫の管理や評価がアバウトだと気付くかも知れません。そして、それがそのまま原価率の引き下げには繋がらなくても、たとえば在庫の管理法や評価法についての助言を試みます。それが、改善策を見つけ出して、実際に改善に取り組むためのベースになるからです。

9.会計事務所事業の奥行きと広がりの追求!

助言を試みて、経営者が『それは確かに必要だ』と感じるなら、コンサルティングを始められるかも知れません。有料告知に際して、経営者が引いてしまったとしても、追いかけるのは禁物です。本当に必要なら、いったん引いても、経営者はまた依頼して来るからです。その依頼は、別の課題かも知れませんが、そのきっかけになったのが、《原価の話》であることは間違いないでしょう。
そんな風に捉えると、年度や月次の決算の検討機会は、企業にとっては事業改善機会の山であり、先生方には有料指導チャンスの宝庫だと言えそうなのです。
そんな視点から、決算時に《改善可能性がイメージできるテーマを探す》習慣を持てるなら、会計事務所の業務には、更なる奥行きと広がりが生まれ始めるとは言えないでしょうか。

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